コロナ禍のリスクとしてあげられる“マスク熱中症”というのをご存じでしょうか。日常的にマスクをつけて外出をすることで、口腔内に熱がこもり、知らぬうちに脱水が進み、熱中症になってしまうことです。昨年に続き、マスクが手放せないこの夏も、マスク熱中症には警戒が必要です。その予防や対策について、脱水に詳しい医師の谷口英喜先生に伺いました。
のどの渇きがわからないマスク着用の怖さ
熱中症で病院に搬送された方のデータによれば、昨年、熱中症が原因で倒れた方の28%が直前までマスクを着用していたということです。そのすべてがマスク熱中症ではないにせよ、多少なりとも日常的にマスクをすることが、熱中症リスクを高めると推測されます。室内での熱中症対策だけではなく、マスクをして出かける時も、上手な熱中症対策が必要となってきます。
「マスクをしていると熱がこもりますから、マスクの周囲や口腔内の温度は上昇していきます。大人ではこの熱が全身にこもり、体温があがることはありませんが、それよりも怖いのはマスクをしていると、のどの渇きを感じづらくなることです。年代にかかわらずすべての方に用心していただきたいのですが、特にのどの渇きに対して鈍感な高齢者は、さらに脱水に気をつけていただきたいですね」
コロナ禍では、人前でマスクが外しづらいという思いがあり、これも小まめな水分補給の妨げになっているといいます。
「マスクをしていると水分補給がしにくいという面もあるため、ふだんより補給が遅れる可能性もあります。まずはご自身で、水分補給を意識することが大切です。のどが渇いていないと感じても、人のあまりいない場所や公園などを見つけたら、ぜひ水分を補給してください。飲料を飲む時は必ずマスクを外しますから、水分補給に加え、マスク内のこもった熱も放出されクールダウンもできます。事前に、外出先の周辺や通勤ルートに、一人になりやすく、気軽に水分補給のできる場所を確認しておくだけでも、マスク熱中症の予防となり、安心して外出ができるようになります」
熱中症を感じたらすぐに経口補水療法を
もし、クールダウンをしても症状があまり変わらず、帰宅後などにめまいや立ちくらみ、大量発汗といった熱中症の症状を感じたら、すぐに経口補水療法を試してください。
「経口補水液は、脱水によって減少した水と塩分(電解質)を、口から素早く体に取り入れることのできる飲料のことで、経口補水療法は、この経口補水液の補水効果によって脱水症を改善する方法です。水と違って、吸収されたあとも体内にとどまるため、脱水症にはとても有効です」
経口補水液ならわずか10分のスピード吸収
経口補水液はドラッグストアなどで気軽に買うことができますが、注意をしたいのが、水やお茶などのようなふだん口にするような飲み物ではないことです。
「脱水の症状が出た時だけ飲むのが基本です。健康を増進するスポーツドリンクと混同されることもありますが、スポーツドリンクがゼロからプラスにする飲み物であるのに対し、経口補水液はマイナスをゼロに戻すための特別な飲み物です。ゼロを超えると塩分が過剰に吸収されてしまいますから、ふつうに食べ物や飲み物がとれるゼロの状態に戻れば飲む必要はありません。また、スポーツドリンクはエネルギーの補給が重視されていますので、急激にエネルギーを吸収して一気に血糖値があがらないように、ゆっくり吸収するようにつくられており、吸収までに約30分を要します。逆に脱水症、熱中症の方にはスピードが勝負。経口補水液は飲んでから約10分で吸収されるようにつくられています。スポーツドリンクに比べて塩分が多く糖分が少ないことも経口補水液の特徴です。吸収が速く、飲むだけでいい利便性から“飲む点滴”ともいわれています」
経口補水液は簡単に入手できる材料で手作りができるため、家庭でつくっている方もいるかもしれません。けれど、コロナ禍ではおすすめできないといいます。
「人の手が加わるので清潔を保つことが難しいため、新型コロナウイルスが蔓延する現在では、熱中症時の飲料として手作りはやめておいた方がいいですね。販売されている商品の方が安全性も高く、何より味がおいしく飲みやすい工夫がされています」
全4回で、谷口英喜先生に脱水症の予防を伺いました。脱水症は様々な健康被害につながるため、特に高齢者の方は正しい知識を前提に、予防法や対処法を身につけることが大切です。脱水症はしっかりした予防を行えば発症を防ぐことができる病気です。本格的な夏を前に、今から備えておくといいですね。それが、コロナ禍で奮闘する医療従事者の負担を減らすことにもつながります。
お話を伺ったのは……
医師のインタビュー記事は、株式会社おいしい健康が運営するメディア「先生からあなたへ」でもご覧いただけます。
https://articles.oishi-kenko.com/sensei/
取材・文/安藤政弘 写真提供/済生会横浜市東部病院