日本は島国であるとともに、国土の大半が山地であり山国でもある。山地に降った雨は、川となり海へと流れる。一部の水は地下にしみ込み、やがて伏流水として各地で湧き出す。湧き出た水は、人々の生活を潤し、その地域の文化を育んできた。恵をもたらした湧水は、逸話と共に名水として語り継がれている。そんな名水を求め各地を訪れたいと思います。
古都の名水散策第2回目は、阿波踊りで有名な徳島県徳島市を訪ねることといたしました。徳島市のシンボルである眉山(びざん)には、「眉山湧水群」というものがあり、古から大切に守られ受け継がれているとのことです。
今回は、「眉山湧水群」の中でも、阿波徳島藩主によって守られたという「錦竜水」(きんりょうすい)と「桐の水」を取り上げ、ご紹介いたします。
■阿波徳島の発展を支えた、眉山の湧水群
徳島市の歴史を紐解くと、都市として大きく発展するのは16世紀にまで遡ります。天正13年(1585年)に、阿波徳島藩主となった蜂須賀家政が、吉野川の南の土地に徳島城を築き、城下町として町割り整備を進めたことで発展したという歴史があります。
城下とした地域は、吉野川とその支流によって形成された三角州であったため、海が近く飲料水に適した井戸は非常に少なかったようです。
そのため、藩主蜂須賀家政が、城下の人々の飲料水を確保するために周辺地域を水脈探査したところ、眉山の周辺には豊富な湧き水群があることが判明します。それらの湧き水は、今なお「眉山湧水群」として、市民によって大切に保護、継承されています。
なお「眉山湧水群」とは、この記事で紹介する「錦竜水」と「桐の水」を含め、蔵清水・青龍水・雲龍水・菩薩泉・春日水・鳳翔水・八幡水など九つの湧き水のことを指しています。
ちなみに、眉山という名は、万葉集にある
「眉の如 雲居に見ゆる 阿波野山 かけて漕ぐ舟 泊知らずも」
の詠歌に由来すると言われています。
■阿波徳島藩の御用達の名水
「眉山湧水群」の中でも、特に水質が良いとされているのが「錦竜水」です。この「錦竜水」は、江戸時代、阿波藩主蜂須賀公がご愛飲された名水でありました。今では誰でも自由に汲み飲むことができますが、江戸時代は徳島藩によって厳重に管理されていました。
「錦竜水」のある寺町の一角には、水番所なるものが設置され保護・管理されるとともに、徳島城内へ水を運ばせていたという史実があります。「錦竜水」の歴史は古く、江戸時代前期の延宝4年(1676)には、藩が水売り人16人を限定していたとの記録も残っています。こうした「水売り」という生業は、上水道が整備される大正15年(1926)頃まで、行われていたようです。
明治時代には、水桶を積んだ車を引く水屋が市中を廻る風景が見られ、家々では軒先に「水入用」の木札を出して水を買い求めていたとのことです。こうした史実からも「錦竜水」が、いかに人々の生活に深く根ざした水であったかがわかります。
「錦竜水」の水質の良さ、美味しさについては、いくつもの逸話があります。その一つが、明治41年(1908)の皇太子行啓の折に、御料水として選ばれた記録があるほどですから、折り紙付きといってもよいでしょう。カルシウムイオンやマグネシウムイオンなどを多く含む硬水(硬度78.3ppm)で、とくしま市民遺産にも選定されています。
昭和51年頃に、眉山の土砂崩れの影響などでいったん水脈が途絶えた時期がありました。「名水阿波錦竜水保存会」が復旧工事を行ない、昭和62年8月に蘇っています。
もう一つ阿波徳島藩とゆかりの深いのが、「桐の水」です。「桐の水」は、「眉山湧水群」の中でも最も高い位置に水源があり、藩主である蜂須賀公が、茶の湯に使用していたとする言い伝えがあります。「桐の水」の名の由来は、蜂須賀の家紋が「桐」であったことから、その名が付いたようです。
当時は、庶民などが飲める水ではなかったに違いありません。「お殿様、御用達の名水」であったわけですから、由緒ある名水といってもよいでしょう。
「桐の水」は一時は枯れていましたですが、平成元年に行われた公園整備の工事中に、水源が発見され「桐の水」として復活したとことです。
■名水を使用した地場産品
錦竜水を利用した地場産品としては、錦竜水わらび餅、阿波名物「滝の焼餅」、錦竜水仕込み吟醸瓢太閤があります。特に下記の写真にもある「滝の焼餅」は、錦竜水から程近いところで食せるので、気軽に食べることができますよ。ぜひ、立ち寄って味わって見られたらどうでしょうか。
■アクセス情報
「錦竜水」〒770-0909 徳島県徳島市寺町6
「桐の水」〒770-0048 徳島市加茂名町庄山の一部 西部公園内
取材・動画・撮影/貝阿彌俊彦(京都メディアライン)
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