岩手県奥州市水沢地区は、奥州藤原氏の時代より鋳物産地として知られた里だ。そこで古来培われてきた鉄器鋳造技術の結晶とも言うべき製品が、この端正な南部鉄器の鉄瓶である。
鋳物の原理は単純である。砂を上型と下型に造形し、鉄瓶内部を空洞にするための中子を入れたら、溶けた銑鉄を流し込む。基本はそれだけ。だが、砂型作りや溶けた銑鉄の成分と火力調整、流し込むタイミングなど、それぞれの作業に高度で繊細な職人技を要する。本品の鋳造を手がけた水沢鍛造工芸社では、炉でどろどろに溶けた銑鉄を男たちが大きな柄杓で受け止め、気合いの声とともに砂型まで運ぶ光景に出会える。そこには南部鉄器900年の伝統が確かに息づいている。
鋳物の鉄瓶で沸かした湯は、どこかまろやかな味に感じられる。そしてまたどっしりとした厚手の鋳物は、蓄熱性にも優れ、湯も冷めにくい。
武家や茶人が愛した古来の鉄瓶をただ写すのでなく、現代の若者や外国人の心の琴線にも触れる意匠を目指したという本品。
伝統に磨きあげられた重厚にして質朴たる佇まいは、本物の証である。
【今日の逸品】
鉄瓶 籐巻き
水沢鍛造工芸社
22,680円(消費税8%込み)