炉から出たばかりの銑鉄は、真昼の太陽のような輝きを発していた。見ているだけでも暑い。真夏は作業場全体が40℃近くに達し、塩と水分を大量に摂らないと体がもたないという。
ここは岩手県奥州市水沢区。奥州藤原氏の時代より鋳物産地として知られた里だ。
炉から流れ出た銑鉄は、まず「とりべ」と呼ばれる鉄製の柄杓で汲みだされ、男たちが砂型の並ぶ場所まで小走りに運ぶ。入っているのは液体だが、それは溶けた鉄である。1杯20kg近くあり、重さは梃子の逆原理で男たちの腰へのしかかる。持ち上げるたびに「うりゃあっ」という気合いの声が工場中に響く。
「鋳物の原理は単純です。砂に粘土を溶かした水を混ぜ、内型と外型を作ります。型が固まったら、溶けた銑鉄を流し込む。それだけですが、砂型作りや銑鉄の成分と火力調整、流し込むタイミングなど、それぞれの作業に高度で繊細な職人技を要します」(水沢鍛造工芸社・小野寺修製造課長)
そうした技術の結晶とも言うべき製品が、この端正な鉄瓶だ。
武家や茶人が愛した古来の鉄瓶をただ写すのでなく、現代の若者や外国人の心の琴線にも触れる意匠を目指した。
昔から、鉄瓶で沸かした湯はまろやかな味になるといわれる。鋳物の内面に水が触れる際、成分に微かな「入れ替え」が起こり、舌に不快な成分は吸着され、足りない成分は補充されるからだという。水はH2Oだが、化学式どおりの純水はまったくの無味だ。水は水の成分だけでおいしくなることはできないのである。
鋳物製品のもうひとつのよさは、蓄熱性だ。硬さともろさが同居する銑鉄は、一般的な鋼のように圧延したり打ち鍛えて加工することができない。製品にする際は強度を保持するため一定の厚みを必要とする。つまり重くなる。
これまで重さは鋳物製品の欠点と見られがちだったが、鉄は体積が大きいほど熱をたくさん蓄える性質を持つ。
商品名/鉄瓶 籐巻き
メーカー名/水沢鍛造工芸社
価 格(消費税8%込み)/20,520円