創立150年を迎える東京国立博物館は、日本で最も長い歴史を誇る博物館。数多くの美術品を収蔵する東京国立博物館の中でも、質量ともに最も充実しているのが絵画。そこで、「未来の国宝」候補といえそうな作品をご紹介します。
川村清雄『形見の直垂(虫干)』
明治という時代性を象徴しつつ、独自の画風で見る者を惹きつける
白い直垂(ひたたれ)を物憂げに見つめる少女と、相対するように小さな棺の上に置かれた胸像が印象的な一作。
本作を描いた川村清雄(かわむらきよお)は幕臣の子として嘉永(かえい)5年(1852)に江戸で生まれる。元々は日本画を学んでいたが時代の趨勢(すうせい)か、当時、洋画研究の先駆者として名を馳せた川上冬崖(かわかみとうがい)に師事。洋画を学びはじめると徳川家留学生となって明治4年(1871)に渡米。やがて本格的な絵画研修を目指して渡仏し、パリで過ごした後にはイタリア・ヴェネツィアの美術学校に入って西洋絵画の技法や構成を習得することになる。
明治14年(1881)に帰国すると、日本画の素養を存分に発揮しながら題材にも日本的な要素を積極的に取り込み、油絵の中に独自のスタイルを確立して高い評価を得るに至った。
恩人への熱い想い
今一度、作品を見てみよう。絵の主役である少女の背景には日本的な漆塗りの調度品や染織品などが置かれているが、少女の足元は洋風の絨毯(じゅうたん)という対比。また少女は直垂という和装なのに対し、胸像の男性は洋装でもある。実はこの胸像の主、幕末から明治にかけて活躍したあの勝海舟(かつかいしゅう)だという。勝は長きに亘(わた)り川村の庇護(ひご)者であり恩人でもあった。本作は、そんな勝の死を受けて川村が描いた鎮魂を願う絵なのだった。少女が身に纏う直垂は勝の葬儀の際に棺を担いだ侍者が着ていたものという。
画中における和洋の対比には、互いの西洋体験とともに、明治という時代性を暗示する意図も込められているのだろう。
本作品は本館2室で11月22日(火)〜12月25日(日)まで展示予定。
「サライ美術館」×「東京国立博物館」限定通信販売
東京国立博物館創立150周年限定の高精細複製画を「サライ美術館」読者のためだけに受注製作します。
東京国立博物館監修の「公式複製画」をあなたの元へお届けします。
製作を担当するのは、明治9年(1876)の創業時から印刷業界を牽引する「大日本印刷」(DNP)。同社が長年にわたり培ってきた印刷技術を活用して開発したDNP「高精彩出力技術 プリモアート」を用いて再現します。
その製造工程は以下の通り。まず原画の複写データは、東京国立博物館から提供された公式画像データを使用。そのデータを、長年印刷現場で色調調整を手がけてきた技術者が、DNPが独自に開発した複製画専門のカラーテーブルを使って、コンピュータ上で色を補正。原画の微妙な色調を忠実に再現した上で、印刷へと進みます。
通常、印刷は4色のインキで行なわれているが、「プリモアート」では10種類のインキを用いて印刷が行なわれます。そのため、一般の印刷物に比べて格段に細やかな彩度や色の濃淡などを原画に忠実に再現することができます。
今回はさらに、そうして再現された複製画と額を東博の監修を受けた上で、館長・藤原誠さんの署名入り「東京国立博物館認定書」を付けてお届けします。東博150年の歴史の中で、こうした認定書を発行するのは、今回が初の試みとのこと。ぜひこの機会をお見逃しなく。