創立150年を迎える東京国立博物館は、日本で最も長い歴史を誇る博物館。数多くの美術品を収蔵する東京国立博物館の中でも、質量ともに最も充実しているのが絵画。そこで、「未来の国宝」候補といえそうな作品をご紹介します。
歌川国政『市川鰕蔵の暫』
歌舞伎十八番の“にらみ”を斬新な構図で切り取った意欲作
浮世絵における役者絵といえば、大首絵(おおくびえ)と呼ばれる大胆な誇張表現で鮮烈なデビューを飾った東洲斎写楽(とうしゅうさいしゃらく)が有名だ。『三代目大谷鬼次の江戸兵衛(おおたにおにじのえどべえ)』などはその典型である。
しかし、ここに紹介する歌川国政(うたがわくにまさ)の『市川鰕蔵の暫(いちかわえびぞうのしばらく)』も、その大胆な構図はまったく引けを取らないくらいに鮮烈だといえる。
大首役者絵で頭角を現す
題材は言わずと知れた歌舞伎十八番のひとつ『暫』。成田屋(なりたや)・市川團十郎(だんじゅうろう)家のお家芸であり、現在は鎌倉権五郎(かまくらごんごろう)という設定になっている主役を象徴する、異様に大きな三升紋(みますもん)──成田屋の紋の入った長素襖(ながすおう)を画面手前に大きく配し、その向こう側に真横を向いた鰕蔵を描く。頭につけた白い力紙(ちからがみ)と頭頂部および鬢(びん)の生え際、さらには柿色の長素襖の袖のすべてがほぼ直線で描写され、画面を鮮やかに分割しているところが、この絵の最大の見所か。
作者の歌川国政は、会津国(あいづのくに)に生まれ、江戸に出て当時は紺屋(こうや)と呼ばれた染物屋の職人となるも歌川派を率いて一大勢力を成していた歌川豊国(とよくに)に認められて門下生となった画家である。ちなみに紺屋は絵心や色彩感覚が必要な仕事で、曾我蕭白(そがしょうはく)や鈴木其一(すずききいつ)、歌川国芳(くによし)といった絵師を輩出したことでも知られる。そんな紺屋から豊国門下となった国政は、同時代に活躍した国貞(くにさだ)と並ぶ高弟として名を馳せ、師の豊国とは異なる大胆な構図と迫力ある描写で高い人気を誇ったのだった。
とはいえ、鰕蔵の真骨頂である「にらみ」を強調するためか、瞳孔(どうこう)と虹彩(こうさい)を描き分け、白目の端にうっすらと青く彩色する手法は師である豊国譲りとされている。
「サライ美術館」×「東京国立博物館」限定通信販売
東京国立博物館創立150周年限定の高精細複製画を「サライ美術館」読者のためだけに受注製作します。
東京国立博物館監修の「公式複製画」をあなたの元へお届けします。
製作を担当するのは、明治9年(1876)の創業時から印刷業界を牽引する「大日本印刷」(DNP)。同社が長年にわたり培ってきた印刷技術を活用して開発したDNP「高精彩出力技術 プリモアート」を用いて再現します。
その製造工程は以下の通り。まず原画の複写データは、東京国立博物館から提供された公式画像データを使用。そのデータを、長年印刷現場で色調調整を手がけてきた技術者が、DNPが独自に開発した複製画専門のカラーテーブルを使って、コンピュータ上で色を補正。原画の微妙な色調を忠実に再現した上で、印刷へと進みます。
通常、印刷は4色のインキで行なわれているが、「プリモアート」では10種類のインキを用いて印刷が行なわれます。そのため、一般の印刷物に比べて格段に細やかな彩度や色の濃淡などを原画に忠実に再現することができます。
今回はさらに、そうして再現された複製画と額を東博の監修を受けた上で、館長・藤原誠さんの署名入り「東京国立博物館認定書」を付けてお届けします。東博150年の歴史の中で、こうした認定書を発行するのは、今回が初の試みとのこと。ぜひこの機会をお見逃しなく。