創立150年を迎える東京国立博物館は、日本で最も長い歴史を誇る博物館。数多くの美術品を収蔵する東京国立博物館の中でも、質量ともに最も充実しているのが絵画。そこで、「未来の国宝」候補といえそうな作品をご紹介します。
上村松園『焔(ほのお)』
美人画を代表する画家が描いた嫉妬に狂う女の妖しく悲しい姿
近代日本画壇において、美人画の大家として知られる上村松園(うえむらしょうえん)。生涯をかけて、「理想の女性像」というものを追い求め続けた孤高の画家として高い評価を得ている。
謡曲『葵上(あおいのうえ)』がもとになった本作は、光源氏の正妻の葵の上に嫉妬し死に至らしめた六条御息所(ろくじょうのみやすどころ)の生霊をモチーフとして描く。ひと目見ただけで妖しく恐ろしげな雰囲気が存分に伝わる作品だが、松園自らが「たった一枚の凄艶な絵」と述べたように彼女の作品としては全くの異色作といえるものだ。
そう、上村松園が描く美人画は、どれもが清楚で品がよく、凛とした気質を湛えた女性の姿が描き出されているのである。
奇想の絵師に感化された?
明治8年(1875)に京都で生まれた上村松園は、京都府画学校に入学し絵の道を志す。やがて京都画壇の花形として活躍していた竹内栖鳳(たけうちせいほう)に師事し、その類稀な才能を開花させることとなる。
彼女は、市井(しせい)に暮らす女性の姿や謡曲の主人公、さらには古典に登場する王朝美人などを主題とした美人画を数多く描いたことで知られ、『序の舞(じょのまい)』や『母子』が重要文化財に指定されている。
本作が描かれたのは大正7年(1918)のこと。実はその当時、関西の画壇では日本画家の北野恒富(きたのつねとみ)らが手がける、どこか妖しげで退廃的な情感を示す女性像が流行の時を迎えていた。そんな風潮に感化されたところもあったのかもしれないが、美術史家の山下裕二さんは本作が江戸時代の鬼才・曾我蕭白(そがしょうはく)の『美人図』(奈良県立美術館蔵)に感化されたものではないかと指摘する。謎解きは『未来の国宝・MY国宝』(小学館)に詳しい。
「サライ美術館」×「東京国立博物館」限定通信販売
東京国立博物館創立150周年限定の高精細複製画を「サライ美術館」読者のためだけに受注製作します。
東京国立博物館監修の「公式複製画」をあなたの元へお届けします。
製作を担当するのは、明治9年(1876)の創業時から印刷業界を牽引する「大日本印刷」(DNP)。同社が長年にわたり培ってきた印刷技術を活用して開発したDNP「高精彩出力技術 プリモアート」を用いて再現します。
その製造工程は以下の通り。まず原画の複写データは、東京国立博物館から提供された公式画像データを使用。そのデータを、長年印刷現場で色調調整を手がけてきた技術者が、DNPが独自に開発した複製画専門のカラーテーブルを使って、コンピュータ上で色を補正。原画の微妙な色調を忠実に再現した上で、印刷へと進みます。
通常、印刷は4色のインキで行なわれているが、「プリモアート」では10種類のインキを用いて印刷が行なわれます。そのため、一般の印刷物に比べて格段に細やかな彩度や色の濃淡などを原画に忠実に再現することができます。
今回はさらに、そうして再現された複製画と額を東博の監修を受けた上で、館長・藤原誠さんの署名入り「東京国立博物館認定書」を付けてお届けします。東博150年の歴史の中で、こうした認定書を発行するのは、今回が初の試みとのこと。ぜひこの機会をお見逃しなく。