文/小坂眞吾(『サライ』編集長)
NHK大河ドラマ『いだてん~東京オリムピック噺』が始まってひと月近く。ビートたけし演じる昭和の名人、古今亭志ん生の「滑舌の悪さ」が何かと話題になってますが、落語好きに言わせれば、あれはあれでOKなんです。
なぜなら……当の志ん生自身も、滑舌はけっしてよくなかったから。
志ん生は絶頂期の昭和36年暮れに脳出血で倒れましたから、そこからの復帰後の滑舌が悪いのは当然ですが、倒れる以前も、けっして滑舌はよくありません。
落語の名人と言うとつい「立て板に水」の語り口を想像してしまいますが、志ん生は違います。言葉に詰まったり、言葉を詰めすぎて舌が回らなかったり。そういう音源が山ほど残っています。
それなのに名人、それも「希代の名人」と称されるのは、ごく単純に言えば「聴いてて面白い」から。
志ん生の落語では、せりふとせりふのあいだに、微妙に長い「間」があります。すると聴き手は、タイミングを外されていささか前のめりになりつつ、次のせりふを待つ。そこに時おり、想定外のせりふが飛び込んでくる――それが志ん生の、いちばんの魅力です。
サライ責任編集で刊行中の隔週刊CDつきマガジン『落語 昭和の名人 極めつき72席』の創刊号「五代目古今亭志ん生(壱)」に収録した『火焔太鼓』でも、「間」と「即興」による志ん生落語の到達点を聴くことができます。
たとえば、古道具屋の甚兵衛さんが、業者の市で仕入れた汚い太鼓を大名屋敷へ出向いて売る場面。
大名の家来が「300両ではどうだ」と切り出すも、甚兵衛さんはあまりの高値に事情が飲み込めず、「300両というのは…」で一瞬の間をおいて「なんなんです、そりゃ?」。
ほかの音源では、ここには違うせりふが入っているので、これはこのときの即興でしょう。何が飛び出すかわからない「出たとこ勝負」の面白さを、ぜひ本CDで味わっていただければ幸いです。
※下記で試聴できます
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『落語 昭和の名人 極めつき72席』は、落語黄金期の名人たちが、夢の競演!累計358万部を発行したCDつきマガジン『落語 昭和の名人』シリーズの第3弾です。志ん生、圓生から談志、圓歌、圓蔵まで、1年25巻72席、綺羅星のごとき名人の貴重な音源を読み応えあるブックレットとともにお届けします。
シリーズのラインナップや内容詳細については下記公式サイトをご覧ください。志ん生の『火焔太鼓』や圓生の『三十石』など名演の数々が試聴できます。
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