取材・文/沢木文
仕事、そして男としての引退を意識する“アラウンド還暦”の男性。本連載では、『不倫女子のリアル』(小学館新書)などの著書がある沢木文が、妻も子供もいる彼らの、秘めた恋を紹介する。
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今回、お話を伺った、大久保憲和さん(仮名・65歳)は、都内の有名私立大学を卒業後、外資系のPCメーカーに就職。40代で独立し、ビジネス系のコンサルタントとして活躍している。8年前に離婚し、今は50代後半の恋人と交際して5年になる。
【その1はこちら】
神々しくて相手に近寄れない
憲和さんが人生2回目の恋に落ちた相手は、小学6年生の男の子だった。性的な欲望は一切なく、「神々しいほどの美しい生き物に、魂をつかまれたようだった」と振り返る。
「僕は人に頼まれて、子供向けの私塾の講師を担当している。この私塾は、知的水準が高い家の子供達を対象にしていて、コミュニケーション、情報のインプット方法、プレゼン方法、ディベートなどのそれぞれの講師が課題に取り組ませるというのが主な内容。2019年の夏休みに、ある男の子が入ってきた。塾生の友達で見学に来たとのことで、色が白くてスラッとしていた。その凛として美しいたたずまいに、言葉が出なくなってしまった」
憲和さんは、その瞬間、映画『ベニスに死す』を思い出したという。この映画はイタリアの映画監督・ヴィスコンティの大作。ベニスを訪れた老作曲家が、出会った貴族の血を引く美少年のとりこになり、破滅していくという作品だ。
「あの映画でも、老作曲家と美少年はほぼ会話をしていない。私も彼に対して同じだった。神々しくて声すらかけられないんだよね。塾は3日間あったんだけれど、彼のことを目で追っていた。しなやかな動きや、品がいい仕草を見ては、心がざわざわして、胸が締め付けられるようだった」
また彼は、今の子供にしては表情が乏しかった。周囲の子供達が豊かな表情で、大声で話しているからこそ、その端正さがよりきわだった。
【歴史上の美しい少年達を次々に連想した…次ページに続きます】