取材・文/沢木文

仕事、そして男としての引退を意識する“アラウンド還暦”の男性。本連載では、『不倫女子のリアル』(小学館新書)などの著書がある沢木文が、妻も子供もいる彼らの、秘めた恋を紹介する。

今回、お話を伺ったのは嶋田彰輝さん(仮名・59歳)。現在、総合商社で部長職に就いている。実家は世田谷区内にあり、有名な中高一貫校から私立大学に進学したエリートだ。

【その1はこちら

* * *

55歳の時に再会した女性と、年に2回程度のデートを経て……

「女性から恋をされたい」そんな願望が募っていた55歳の時に、現在の彼女と再会する。

「彼女は、一般職の新卒で俺の部署に来た女性社員だったんだよ。俺が35歳、彼女が20歳だったかな。短大卒なのにウチの会社に入れるから優秀だったよ。俺の部下だったんだけど、気にも留めていなかった。気が付けば寿退社していた、という感じ。あのとき、俺は仕事に夢中だったからね」

嶋田さんはどこで彼女と再会したのだろうか。

「この年になると、大学の同級生と集まって、旨いものを食べようってことになる。まあ、みんないいもの食べているから、味にはうるさい。その会が広まって、20人規模くらいになった時に、誰かが連れてきたのが彼女だったんだよ」

最初、嶋田さんは彼女のことに気が付かなかった。「色っぽいオバサンだな」くらいに思ったのだそう。しかし、彼女はすぐに気が付いて、嶋田さんの手を取り、「新卒のときは、お世話になりました。懐かしい……お会いできてうれしい」と喜びを全開にした。その、躊躇なくも自然なボディタッチに、嶋田さんは驚いたという。

「ふわっと触って来るおミズの女性の手とは全然違って、ギユッと握って来るからドキッとしたよね。そのときは、西荻のビストロだったんだけど、ずっと隣でいろんな話をして、彼女も苦労していたことがわかった。それで、“今度二人で会おうか”ってことになったんだ」

彼女が嶋田さんを覚えていたのは、パワハラとセクハラをしなかったからだという。他の上司は仕事で失敗すると「そんなことも知らないのか」や「結婚して辞めちまえ」などと言っていたそうだ。時代背景もあるが、あまりの発言に彼女は傷ついていた。

しかし、私立男子校で多感な時期を過ごし、女性に対してどこか恐怖心と尊敬があるという嶋田さんは、女性に対する物腰が柔らかく、感覚的に“女性を上”に置いている。当時20歳だった彼女は、35歳の嶋田さんに対して、恋心を抱いていたという。

「当時は全く気が付かなかったけれど、“俺も片思いされていたんだ”と、ちょっと感動したよね。それも、可愛くて性格がいい女性から想われていたというのは、自信になった。その夜、家に帰ったら女房にも“機嫌がいいわね”と言われて、女性は鋭いな……と思ったよ」

【次ページに続きます】

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