取材・文/沢木文
仕事、そして男としての引退を意識する“アラウンド還暦”の男性。本連載では、『不倫女子のリアル』(小学館新書)などの著書がある沢木文が、妻も子供もいる彼らの、秘めた恋を紹介する。
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52歳で亡くなった親友に息子を託される
今回、お話を伺った、西田誠一郎さん(仮名・62歳)は、都内の私立大学を卒業後、大手建設会社を定年退職して2年になる。現在は、3歳年上の妻と悠々自適の生活をしている。
【その1はこちら】
今、誠一郎さんは、恋をしているという。相手は親友の妻だ。
「親友と言っても、もう10年も前に死んでしまったんだ。すい臓がんで、見つかってからはすごく早かった。大学時代、彼と私は山屋(登山愛好家)で、アルバイトをして金を貯めては山に登っていた。昔はね、高田馬場のある場所に行くと、差配人みたいな人がいて、工事現場に連れていかれて汗水流すと1万円もらえるという仕事があったんだよ。シンプルでいいよね(笑)。それで、金がまとまると、八ヶ岳、立山、雲取山、甲斐駒ヶ岳……最後は槍ヶ岳、穂高岳も登った。山岳部という大げさなモノじゃなくて、山好きな先輩と4~5人でね。一番気が合ったのは、彼だった」
卒業後、誠一郎さんは大手の建設会社に就職し、親友は自動車メーカーに就職した。
「お互い、海外勤務が多かったから、山とは自然に縁が切れてしまった。インドネシア、ベトナム、香港……社会人になってもつかず離れず会っており、仕事の相談をお互いにしていた。それなのに、52歳で恐ろしい病気にかかってしまった。結婚が遅かったから、息子さんはまだ10歳だった。私は毎日見舞いに行ったよ。最後は、私の手をとって、『息子を見てくれ。頼む』って。あのときのことを思い出すと、涙が出るよ」
【それから、陰に日向に、残された親友の家族の様子を気にかけていた。次ページに続きます】