取材・文/沢木文
仕事、そして男としての引退を意識する“アラウンド還暦”の男性。本連載では、『不倫女子のリアル』(小学館新書)などの著書がある沢木文が、妻も子供もいる彼らの、秘めた恋を紹介する。
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今回、お話を伺ったのは松木航太さん(仮名・63歳)。東京都世田谷区で生まれ。都立高校の同級生だった妻と、25歳で結婚してから、妻一筋だった。しかし、61歳の時に、妻は乳がんで亡くなってしまう。
「妻の死後半年で、息子夫妻と孫が家を片付けてくれてから、気持ちが切り替わっていきました。妻の気配に包まれているから彼女を忘れられなかったんですよ。今まで、隣に妻がいて、笑ってくれているという生活をしていたので、新しいパートナーが欲しいと思ったのも、この頃でした」
そこで、松木さんはシニア向けの婚活パーティに申し込んでみる。
「50~70代向けの、10人対10人のパーティでした。ふだん、女性と話したことがなかったから、どうしていいかわからず、すごく疲れてしまった。それに、料金も参加費が5000円と安かったので、経済的に困っている女性が多かったんじゃないかな。ある人なんて、『あなたは持ち家がありますか?』っていきなり聞いてきたから。昔、息子が『付き合っている子から年収を聞かれた』って嫌そうな顔をしていたことを思い出した。俺たちの世代になると、年収は年金がメインだから、みなほとんど同じ。家があるかどうかが重要なんだな、って」
金目当てという向きもあるが、女性からアプローチを受けたことで、松木さんは華やいだ気持ちになっていった。
「そのほかの婚活パーティに参加して、けっこう自分がモテるとわかった。同世代の女性と食事をするのは緊張と楽しさがある。2~3か月に1回くらい、そんなことをしていても、この人、という人はいなかったんだよね」
松木さんが女性を見る目は厳しい。亡くなった妻と同じくらいおしゃれで仕事があり、会話が楽しく、多趣味な人を求めている。
「シニア婚活で、そんな相手を探すのは無理だと思っていたし、こっちも飽きてきた。それに、あるパーティで知り合った55歳の女性から『どうしてもあなたと付き合いたい』と言われ、その人はとてもキレイな人だったので、押し切られるように男女の仲になってしまった。そしたら、態度が豹変。あれを買ってほしいとか、生活費を援助してほしいなどと言われて、お断りしてしまった。今思えば、あれが話題の“後妻業の女”だったのかもしれないね」
【再会した会社員時代の部下の女性と食事に行くようになり……。次ページに続きます】