取材・文/沢木文

【最後の恋】

仕事、そして男としての引退を意識する“アラウンド還暦”の男性。本連載では、『不倫女子のリアル』(小学館新書)などの著書がある沢木文が、妻も子供もいる彼らの、秘めた恋を紹介する。

【その1はこちら

* * *

今回、お話を伺ったのは稲垣紀夫さん(仮名・71歳)。群馬県出身の稲垣さんは、都内の私立大学経済学部卒業後、大手住宅メーカーで65歳まで務める。5歳年下の妻との間に子供はいない。

「恋愛は同世代の女性がいい」という稲垣さんは、55歳の時に初めての不倫を経験する。相手は53歳の大学の後輩だ。庶民的で知的な人だからこそ、稲垣さんとの恋に及び腰になって自然消滅してしまう。

「恋愛で辛いのは別れだよ。彼女の気持ちがどんどん離れていくのが見えるから。男と女が付き合っていれば、みっともない部分や、汚い部分を見る。結婚している女性は、男のそういう部分を見慣れているから受け入れてくれると思っていた。でも、違うんだよね」

交際相手の女性は稲垣さんの容姿と勤務先から「仕事できて、カッコよくて、話題も豊富でスマートな紳士」を求めていた。

「相手は最初、僕を等身大以上に評価している。しかし、デートを重ねるにつれて、等身大の僕が見えて来る。減価償却したらポイ、という感じだね。僕は、妻とは別の緩やかな信頼関係を築く女性が欲しいと思っている。しかし、女性は“ここではないどこか”に連れて行ってくれる白馬の王子様がいいんだよ」

最初の彼女と別れた後、2人の女性と深い仲になったという。いずれも、4~5回のデートで距離が離れていったことから、もう浮気はやめようと思った。

「相手もいなくなるからね。日本の女性って55歳以上になると、身なりにかまわなくなる女性が増える。数年前まで優雅だったのに、久しぶりに会ったら、刈り上げショートヘアで、スニーカーとリュックに帽子を合わせたおばさんになっていることが多い。大人の恋愛は、魅力ある中年男女だからできる特別な行為だと思う。そのためには、教養、容姿、お金などさまざまな条件が絡み合っている」

同窓会で再会した高校時代のマドンナ。次ページに続きます】

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