「負の罰」と「正の強化」

プリンターの上がお気に入りのつゆちゃん。でも、父さん母さん、困ってます。

プリンターの上がお気に入りのつゆちゃん。でも、父さん母さん、困ってます。

具体的にどんな方法があるかというと、「負の罰」と「正の強化」という方法があります。

タオルの上に乗るのがダメなのであれば、タオルを取りあげます。その存在を猫の前からなくしてしまうのです。でも、猫は座り心地のいいそのタオルがお気に入りだったのかもしれません。だから、そのタオルはダメだけど、これならいいよ、と猫用の座布団をおいてあげるとか、代替物を用意してあげるといいかと思います。そして、いい子だね、といって頭を撫でてあげます。

2週間くらいすると、「この座布団だと怒られないぞ」と猫はわかってきますし、場合によってはご褒美(褒めてもらったり、おやつがもらえたり)があることに気づきます。そうなると、タオルと座布団の両方を差し出した場合、猫は座布団を選ぶようになるでしょう。その方がいいことがあることを、猫は学習してわかっているから。

いたずらにしても同じで、いたずらをしてほしくない物があれば、それは取りあげて、代替物を渡して褒めることによって、猫は次第に代替物のほうが好きになっていきます。これは、「負の罰」と「正の強化」の組み合わせによるトレーニングで、とても有効です。

「罰」は「行動をやめさせる」こと、「強化」は「行動を続けさせること」を意味します。「負」は、「何かを引くこと」、つまり取りあげて目の前からなくすことです。逆に、「正」は「何かを与えること」をいいます。

先ほどお話した、猫が気を引きたくてする行動に対して、反応しない、無視をするというのは、大好きな飼い主さんを取りあげてしまう「負の罰」ということになります。実際にその場にはいますが、反応しないことで、取りあげてなくなってしまったのと同じ効果があります。だから、猫はその行動をしなくなるのです。

「正の罰」は、「何かを加えてやめさせる」ことですので、叩くしつけは、痛みを加えてやめさせる「正の罰」ということになります。でもそれは、猫にとってはストレスでしかありません。猫が粗相をしてしまったからといって、叱っても意味はありません。

粗相をしてしまってだいぶたってから発見して叱っても、猫にとっては「何のことやら?」です。

むしろ猫は、「おしっこの跡がある」+「人間がきた」=「やばい! 逃げる!」となるだけです。自分じゃなくて他の猫のおしっこであっても、逃げるようになります。

でも、反省しているから逃げるのではなく、怒られるから逃げるのです。それに、粗相が改善するわけでもありません。「叱っているのに全然改善しない」と思っている人は、それはうまく叱ることができていなくて、猫にストレスを与えているだけだからでしょう。まずは叱ることをやめることから始めてみましょう。叩くのは論外です。

悲しいことに、犬の場合は往々にして「正の罰」、つまり痛みや不快感を与える厳しいトレーニングがなされがちですが、幸か不幸か猫の場合は、「どうせわからない」と勘違いされているため、トレーニングすらしないで放置されている場合が多いのです。でも、繰り返しになりますが、猫もちゃんと学習能力がありますから、犬と同じようにしつけることができます。

一方、ぽんちゃんは…「猫さんたちがいつも楽しそうに段ボールに入っているので、ちょっと真似してみました」

一方、ぽんちゃんは…「猫さんたちがいつも楽しそうに段ボールに入っているので、ちょっと真似してみました」

猫と楽しく、気持ちよく暮らすためにも、猫にも人にもストレスでしかない「正の罰」ではなく、猫の学習能力を信じて「負の罰」と「正の強化」の組み合わせで上手に誘導してあげて下さいね。

入交眞巳さん

指導/入交眞巳(いりまじり・まみ)
日本獣医畜産大学(現・日本獣医生命科学大学)卒業後、米国に学び、ジョージア大学付属獣医教育病院獣医行動科レジデント課程を修了。日本ではただひとり、アメリカ獣医行動学専門医の資格を持つ。北里大学獣医学部講師を経て、現在は日本獣医生命科学大学獣医学部で講師を勤める傍ら、同動物医療センターの行動診療科で診察をしている。

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累計19万部を突破した「わさびちゃんシリーズ」の 第1弾『ありがとう! わさびちゃん』(小学館刊)。

■わさびちゃんファミリー(わさびちゃんち)
カラスに襲われて瀕死の子猫「わさびちゃん」を救助した北海道在住の若い夫妻。ふたりの献身的な介護と深い愛情で次第に元気になっていったわさびちゃんの姿は、ネット界で話題に。その後、突然その短い生涯を終えた子猫わさびちゃんの感動の実話をつづった『ありがとう!わさびちゃん』(小学館刊)と、わさびちゃん亡き後、夫妻が保護した子猫の「一味ちゃん」の物語『わさびちゃんちの一味ちゃん』(小学館刊)は、日本中の愛猫家の心を震わせ、これまでにも多くの不幸な猫の保護活動に大きく貢献している。

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