取材・文/坂口鈴香
「何かおかしい」「もしかしたら、認知症のはじまり?」……高齢の親の様子に違和感を持ちつつも、「まさかうちの親が」「年のせいだろう」と不安を打ち消しながら過ごしているうちに数年が経過し、病院に連れていったときにはかなり進行してしまっていた、という例は少なくない。
大島京子さん(仮名・50)が母・総子さん(81)の異変を感じたのは、父・敏夫さん(83)の入院中のことだった。当時、大島さんの両親は二人暮らし。大島さんと兄(53)は独立し、電車で30分ほどの場所に住んでいた。
母がおかしい
がんの疑いで手術した敏夫さんは術後のせん妄がひどかったが、どうしても自宅に戻りたいと主張し、退院することが決まった。そのことを大島さんに伝える総子さんの言動に違和感を覚えたという。
「『あと2、3日は入院していてもらわないと困る。京子が勝手に先生と話して決めたんだろう! 私が今すぐ病院に行って、もっと入院させろと言いに行く』とすごい怒りようでした。私がいくら『お父さんが決めたこと』だと言っても母の怒りはおさまりません」
「京子は会社に行って楽をしている。お前は嘘つきだ」と、何時間も京子さんを責め続けたという。
追い詰められた父がウツに
結局、予定通り敏夫さんは退院した。せん妄も残り、排せつの失敗もあったため、会社帰りに大島さんは実家に通うことになった。次第に敏夫さんの状態が落ち着いていっても、総子さんは突然激怒するなど、依然として感情の浮き沈みが激しかった。
病院で検査をしようとしても断固として拒絶していた総子さんだったが、兄が説得して何とか病院に連れていったところ、アルツハイマー型認知症と診断された。そこで、敏夫さんと大島さんが介護保険の申請をしようとすると、「お前たちがグルになって私をバカにしている。私なんて早く死ねばいいと思っているんだろう」と暴言を吐き続けた。
【次ページに続きます】