【人生100年時代の生き方】「今が一番幸せ」｜歳を取るほど幸せになる「百寿者の多幸感」とは【後編】
それが
(1)「やってみよう！」因子（自己実現と成長の因子）
(2)「ありがとう！」因子（つながりと感謝の因子）
(3)「なんとかなる！」因子（前向きと楽観の因子）
(4)「ありのままに！」因子（独立とあなたらしさの因子）
だ。
(1)第一因子「やってみよう！」因子とは、有能で、社会的要請に応え、成長に満ちていて、自己実現しているという人の特徴を表した因子。大きな目標を持っていること、大きな目標と目の前の目標が一致していること、そして、そのために学習・成長しようとしていることが幸せにつながっている。
(2)第二因子「ありがとう！」因子とは、周りとの安定した関係を目指す因子だ。人を喜ばせる、愛情、感謝、親切などの、他者との心の通う関係が存在する。
(3)第三因子「なんとかなる！」因子は、自己実現や成長（第一因子）を目指す場合にも、他者とのつながり（第二因子）を育む場合にも、楽観的で前向きであることは重要なので、“なくてはならないスパイス”のようなものだ。
(4)第四因子「ありのままに！」因子とは、他人と自分を比較しない傾向や、自分らしさをはっきり持っていることを示す因子だ。
この４つの因子すべてが揃っている人がもっとも幸せではあるが、そうでない「やや幸せ」な人（(1)(2)は高いが、(3)(4)は低い）でも、(1)(2)因子を伸ばせば、(3)(4)も引き上げられていく。「平均的」（４因子がすべて平均か、平均よりもやや下）な人は、強みや個性を伸ばしたり、多様な人と接したりして、いずれかの因子を高めればより幸せになれる。「やや不幸せ」（(3)(4)が高く、(1)(2)が低い）な人は、楽観性を生かせば幸福度向上につながる。さらに「不幸せ」（４因子すべてがマイナス）な人は、少しでもできるものを伸ばす。特に感謝からはじめればよいと前野氏は解説してくれた（クラスター分析を用いた解析結果による）。
この４因子と老年的超越の関連について考えてみたい。
前野氏は「年を取ると『生きているだけで幸せ』と達観し、感謝して暮らしている人が多いのではないでしょうか」と指摘するが、これは(2)に当たる。さらに、「老化により人目を気にしなくなり、記憶力が悪くなって細かいことをくよくよと気に病まなくなる」ことで(4)が生じるようだ。また、前編で登場した広瀬信義氏、増井幸恵氏が話を聞いた超高齢者の言葉からは(1)～(4)の特徴が見て取れる。
つまり、老年的超越とは、幸せの4つの因子を高いレベルで満たすことと言えそうだ。
すなわち
「小さなことにもやりがいを感じ（やってみよう！因子）、あらゆることに感謝（ありがとう！因子）。どんなこともなすがまま（なんとかなる！因子）。小さなことは気にせず自分らしく（ありのままに！因子）」（前野氏）と。
幸せは伝染する
前編で登場した老年行動学・老年心理学の研究者、佐藤眞一氏は、“幸福な老人を見ることは、周囲の人々にとっても幸福なこと”だという（『ご老人は謎だらけ』（光文社））。その存在だけで勇気づけられるとするなら、どちらにとっても幸福なこと。幸福の連鎖だ。
同様に、前野氏も「幸せは伝染する」という。
「幸せな人の周りには幸せな人がいる場合が多く、幸せは伝播し広まっていくことが研究により明らかにされています。また、幸せな人は多様なつながりを維持しているという研究結果もあります。皆が、多様な夢と希望を持って、多様な人と力を合わせながら、いつか来る老年的超越を楽しみにワクワク過ごす世界――それは、幸せな超高齢者大国日本の未来像ではないでしょうか」
このように、「今が一番幸せ」と胸を張って言える超高齢者が増えれば、社会全体も幸せになるに違いない。そうだとしたら、超高齢化社会もきっと捨てたものではないだろう。
私たちは、これまで経験したことのない「人生100年時代」に突入しようとしている。不安なことは多いけれど、100歳近くなると、どんな景色が見えるのだろう。ちょっと楽しみではないか。
取材・文／坂口鈴香
終の棲家や高齢の親と家族の関係などに関する記事を中心に執筆する“終活ライター”。訪問した施設は100か所以上。20年ほど前に親を呼び寄せ、母を見送った経験から、人生の終末期や家族の思いなどについて探求している。
