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【人生100年時代の生き方】「今が一番幸せ」|歳を取るほど幸せになる「百寿者の多幸感」とは【前編】

取材・文/坂口鈴香

「今が一番幸せ」|歳を取るほど幸せになる「百寿者の多幸感」とは【前編】

「生きてきた中で、今が一番幸せ」――

これまでたくさんの高齢者のお話を聞いてきた。その中で、何度も聞いた言葉がある。それがこの言葉だ。
親の終の棲家をどう選ぶ? 90歳の母の決断」でも、90歳を超えた女性が同じことを言っている。

初めて聞いたときは、純粋に胸を打たれた。だがあまりに何度も同じ言葉を聞く。客観的に見て、今が一番幸せだとは思えない方も、同じようにこの言葉を発する。前向きな言葉で、自分は幸せだと思い込もうとしているのか? それとも、家族に気を遣っているだろうか? そんなうがった見方をしてしまうほど、「今が一番幸せ」は頻繁に聞く言葉なのだ。

ところが、どうやらこれは筆者だけが感じていたことではなかったらしい。「百寿者の多幸感」「老年的超越」という言葉が研究成果として明らかにされるようになってきたのだ。ちなみに、「百寿者」とは100歳以上の人を呼ぶ言葉だ。

超高齢者の多幸感とはどんなものなのか。なぜ起こるのか。百寿者の多幸感について言及しているいくつかの文献から明らかにしてみたい。

百寿者はなぜ幸せ? 老年行動学の観点から

老年行動学・老年心理学を研究する佐藤眞一氏は著書『ご老人は謎だらけ』(光文社)の中で、こう指摘している。

“認知機能も身体機能も、年をとれば必ず若いころよりもデータは悪くなります。(中略)ところが日常の生活では、老人の方が若者よりも成績がよかったり、機能が低いのに生活に適応していたり、幸福感が高かったりすることが往々にしてあります。”

幸福感が高い理由として佐藤氏が挙げるのが以下のポイントだ。

・残された時間が短いことを自覚しているので、無意識のうちにポジティブなことに目が向きやすい。
・自分の力で外界を変えることができないので、自分の考え方を変える二次的コントロールを行っている。
・意識的、無意識的な適応戦略がある。

たとえば若いころ几帳面だったのに、洗濯物をたたんでいない、テーブルの上にものを出しっぱなしにしているなど、年をとったらだらしなくなった、などは衰えた機能に適応した暮らし方をしているだけなのだ。

超高齢者が幸福を感じるポイント

佐藤氏が幸福を感じるための条件として挙げるのが、「自己決定」だ。「自己決定=自律」が保たれていれば、「自立」できていなくても幸せを感じられるという。だから、“最晩年には、人は必ずといってよいほど、自立できなく”なるが、自分の意志でなにかをしていると思うことができる、つまり「自律」が保たれていれば、幸福感はなくならない。幸福なら、生きる意欲も失われないというのだ。

年をとるほど幸福になれる? 慶応大学医学部 百寿者の包括調査から

次に、慶応義塾大学医学部百寿総合研究センター特別招聘教授、広瀬信義氏の著書『人生は80歳から~年をとるほど幸福になれる「老年的超越」の世界』(毎日新聞出版)を見てみよう。

広瀬氏は20数年前から、全国の100歳以上を対象に、医学所見、遺伝子、認知機能、日常生活活動度、性格、幸せ感などの包括的な調査をしている。その中で注目したのが「老年的超越」だ。これは、1989年にスウェーデンのトルンスタム教授が提唱した概念で、「超高齢になると、物質主義的で合理的な考えから宇宙的、超越的、非合理的な世界観に変わることにより、幸せ感が得られるようになる」という。

広瀬氏は、百寿者へのインタビューから、幸せ度が高くなるには

(1)達成感
(2)受け入れ=今の自分を受け入れていること
(3)希望

の3つがポイントだと指摘する。

「子供の夢はあくまでも夢であって実現されていない。私は自分の夢を実現させてきた。だから今幸せ」(105歳の女性)、「心配してもどうしようもないので心配しないようにしている」(110歳の女性)などというのは(1)達成感や(2)受け入れが、「あと10年以上は長生きしたい。いくつになっても希望は必要よね」(110歳の女性)に至っては、若輩者には計り知ることのできない大きな希望があるのがわかる。

百寿者の心理的特徴とは? 日本最大規模の老年的超越調査から

2013年に日本最大規模となる「超高齢者の老年的超越」調査に携わり、これまで2000人近くの高齢者に対する実証研究を行った心理学者、増井幸恵氏は『話が長くなるお年寄りには理由がある~「老年的超越」の心理学』(PHP新書)の中で、百寿者の心理的特徴を以下のように分析している。

・感情の安定性

「歳を取って役に立たなくなった、子供や孫にも会えない。だけど、嫌な気分はほとんどない。気持ちは落ち着いている。いいことがあるわけではないけれど、とても幸せ」というように、超高齢は、悪いことがあったからといって必ずしも悪い気分にはならず、むしろ穏やかにポジティブに受け止めるという特徴がある。出来事と感情をリンクさせない知恵のようなものを持っている。

・孤独についての考え方が若い世代とは違う

孤独は不幸と感じていない人もいるのが、90歳以降の高齢者の特徴。
子どもや孫に「会えないのが普通」。「物理的には会っていなくても、つながりは十分に感じている」「会っていないから不幸と感じるというわけではなく、会っていないけど心の中でよい関係でつながっている」という感じ。

・ものごとをあるがままにとらえる

ただ90歳、100歳と歳を重ねるだけで、物事をあれこれ考えなくなり、ありのままに自然体で捉えられるようになるのかもしれない。

・自然な老化の過程で起こる

老年的超越は、何かを乗り越えて得られる心理というよりは、自然な老化の過程で起こる心理だろうと考えられる。

・女性の方が老年的超越の得点が高い

女性は合理的な思考にあまり縛られておらず超越的な特性を持っているのかもしれない。
また子育ての経験から、自分よりも他者(子供)を大切にする「利他性」が求められることが要因のひとつではないか。

「老年的超越」の観点から高齢者のいる家族へのアドバイス

これらの特徴を踏まえ、増井氏は高齢者のいる家族に以下のようなアドバイスをしている。

・「頑張って」と言いすぎない

老年的超越は「諦め」ではないのかという疑問もわくが、増井氏は、若いころできたことをしなくなる=「諦め」だとしても、若い人の諦めとはかなり違う面があるという。つまり老年的超越では、諦めがあっても“ネガティブな感情にならず、ポジティブな状態が続く”“それをありのままに受け止めて、穏やかで平然としている”というのだ。だから、家族は九十歳を超えた方や体力の衰えている方には「頑張って」とあまり言いすぎない方がよい。

・一人の時間をつくることを大切に

高齢者にとって、思索する時間というのはとても大切だと指摘する。
“思いをめぐらせることで、これまでの人生を振り返って整理する、離れて暮らしている子供や孫のことを思ってつながりを感じる、これからの世代のことを考える、そういったことが幸福感や満足感を高めていく”ので、在宅介護であっても一人の時間をつくることは大切なのだ。

・頻繁に面会に行かなくても大丈夫

同居している子供がいるよりも、別居している子供がいるほうが、老年的超越が高く、満足度が高いという傾向も見られるという。

どちらが幸せなのか、同居していなくても幸せなのかは、そう簡単に結論を出せないものの、施設に預けた場合でも“超高齢者は、長い時間を待てるようなので、毎日会いに行かなくてもそれほど気にされない”だろうと指摘する。それは、“超高齢の方は、若い人とは時間の感じ方が違っていますので、毎日とか週に数回というほどの頻度でなくても「しょっちゅう会っている」という感覚になると考えられる”からだ。

90歳を超えると、それまでとは違う世界が見えてくるようだ。その世界を知りたくなった人もいるのではないだろうか。

一方で、「超高齢になるまで待てない」「今、幸せになりたい」というサライ世代もいるだろう。そんな中高年にも希望はある。

後編では、そんな中高年に向けて幸せとは何か、幸せになるためにはどうしたらよいのかについて考えてみたい。

後編に続きます】

取材・文/坂口鈴香
終の棲家や高齢の親と家族の関係などに関する記事を中心に執筆する“終活ライター”。訪問した施設は100か所以上。20年ほど前に親を呼び寄せ、母を見送った経験から、人生の終末期や家族の思いなどについて探求している。

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