取材・文/柿川鮎子 写真/木村圭司

ユリの花粉は脂質で粘着力が強くペットの被毛に付くとなかなか取れません。不安な時は、まず口の周りに花粉がついていないか、要チェック。

お部屋の中にグリーンがあると心が和みますよね。しかし、心和むグリーンも、ペットにとっては脅威になる可能性もあります。

例えば、美しいユリや、夏のベランダに咲くアサガオには、有毒成分が含まれていて、犬や猫が食べると死に至ることもある怖い植物のひとつです。

そこで今回はお花屋さんも意外と知らない「ペットにとって怖い草花」について、ひびき動物病院の院長岡田響先生に教えていただきました。

*  *  *

人間にとっても毒となるヒガンバナやスズランなどのほか、アジサイ、つつじ、チューリップ、スイセン、ユリやアサガオも、犬が食べてしまうと怖い植物です。吐き気や下痢など軽度で治まる場合もありますが、アルカロイド(窒素を含む塩基性化合物)や強心配糖体(心臓の収縮力を強化する,ステロイド配糖体)、青酸配糖体(酵素分解などで青酸ガスを排出する配糖体)などの成分を持つ植物もあり、これらは心不全や多臓器不全を起こしかねません。

お部屋のグリーンとして一年中飾られることの多いポトス、イングリッシュアイビーなど、いわゆる観葉植物は、部屋に置かない工夫も必要だと岡田先生は言います。

「お部屋のなかの身近な危険物質としては、夏の果物のブドウがありますが、夏に飾る機会の多いユリの花、花粉、葉っぱも同じぐらい怖いものの代表選手です。ブドウと同じか、それ以上に、急速に腎不全を起こします。花が生けられていた花瓶の水にも危険な成分が含まれる場合があります。注意してほしいです」

切り花の中では長持ちして美しいユリは、花束のプレゼントとして贈られることの多い花のひとつ。仏壇の花としても年中、お部屋に飾られる機会があり、人気の花ですが、ペットのいる家では要注意なのだとか。

死亡例が確認されている猫のユリの花中毒

「国際ネコ医学会(ISFM)では、猫とユリの危険性について情報提供をしています。危険を呼び掛けるポスターをダウンロードで配布しています(英語版のみ)。猫に関しては、当院でも駆けつけて来られる患者さんが時々いらっしゃるので、全国規模で見たら結構たくさんの猫がユリの事故に遭っているのではないかと想像しています。死亡例も報告されています。

ペットのいるお宅ではユリはなるべくお家に飾らないか、玄関や寝室などペットが入ってこないお部屋に飾った方が安心でしょう。飼い主さんが忘れたころに、じゃれついて食べたりしてしまうケースが多いようです」と岡田先生は警鐘を鳴らします。

遊び好きの子犬がいる場合は花瓶の転倒事故を防ぐためにも、花を飾る場所には注意を。秋田犬などの大型犬は子犬であっても、強い力をもっています。

「他の中毒と同様、ユリを食べて腎不全になると、助からないケースが少なくありません。壊れた腎臓の機能はもともと回復しにくいのです。ペットにとっても飼い主さんにとっても辛いケースが予想されるので、基本的にはペットのいる部屋にユリは置かないようにすすめています」と岡田先生。

万一、食べてしまったらどうすればいい?

実際に食べてしまった場合は、吸収される前に吐き出す処置をするなどの治療が必要なので、動物病院に相談した方が良いとのこと。

「結局、動物病院に行くべきだという結論になってしまいますが、誤食の場合は早く動かないといけません。特にブドウやユリなどの中毒は命にかかわるケースも少なくありません。大切な命の為にも、一刻も早く動物病院に行く、というのが一番正しい判断なのです」

もしペットがユリの花をかじっていたら、量はどのくらいかを調べること。花をスマホで撮影しておくのも有効です。ユリの花によく似た毒のない花もあるからです。中毒の治療では、原因が明らかな場合は早急な処置が可能です。すぐに病院に行きましょう。

「原因がよく分からない場合は治療も始めから苦戦してしまいます。本当にユリなのか、ユリ以外の別の毒物なのかも見極める必要があります。食べたものによって、対応が変わるからです。

肝心なのは、中毒の可能性について、飼い主さんが気づけるかどうか。『うちの子、急に何か変だ』と飼い主さんが気がついて、すぐに病院に来てくれるかどうか。飼い主さんの判断が、ペットの生死を分けることもありますよ」と教えてくれました。

事故は中毒物質が無ければ100%、予防できる

「飼い主さんの側からすると、獣医さんは何でもかんでも病院・病院と言っている様に見えるかもしれませんね。でも、実際に見て、触って、診察しなければ判断できない事態がほとんどなので、どうしても連れて来て下さいということになってしまうんです。特に中毒事故は時間の経過とともに悪化するケースが多いので、本当に早く来院して欲しいです。インターネットだけに頼らず、安心して暮らせるペットとの生活を楽しんで欲しいですね」。

ケガや病気は飼い主さんがどんなに注意をしていても、完全に防ぐことは難しいもの。しかし、中毒事故は原因となる食べ物さえ口に入れなければ、100%防ぐことが可能です。

飼い主さんが知ってさえいれば、原因となる物質(今回は草花)をペットから遠ざけることができます。事故は未然に防ぎつつ、愛する動物と快適なペットライフを送ってください。

取材協力/岡田響さん(ひびき動物病院院長)
神奈川県横浜市磯子区洋光台6丁目2−17 南洋光ビル1F
電話:045-832-0390
http://www.hibiki-ah.com/

文/柿川鮎子
明治大学政経学部卒、新聞社を経てフリー。東京都動物愛護推進委員、東京都動物園ボランティア、愛玩動物飼養管理士1級。著書に『動物病院119番』(文春新書)、『犬の名医さん100人』(小学館ムック)、『極楽お不妊物語』(河出書房新社)ほか。

写真/木村圭司

 

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