「やすらぎの郷」のような老人ホームは実在するのか?

取材・文/坂口鈴香

今年の4月から放送されてきたドラマ「やすらぎの郷」(テレビ朝日)が終わった。楽しみに視聴していたサライ世代も多かっただろう。豪華キャストも話題を呼んだが、高齢者の喜びや悲しみ、孤独がリアルに描かれ、幅広い世代の共感を得た。

舞台となったのは高級老人ホームだが、問題はその施設とサービスだ。これが実際の有料老人ホームだったとしたらどうだろう。そのウソとマコトを検証したい。

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関東近郊の海辺のリゾート地。広大な敷地に、点在するコテージ。プライベートビーチまである。「やすらぎの郷」のロケ地は某有名ホテルらしいが、こんな贅沢な環境の老人ホームは、決して架空の話ではない。

特に介護保険制度がはじまるまでは、豪華な設備をウリにしたリゾート型の高級老人ホームは多かった。ロビーにはシャンデリア、プールやテニスコート、スポーツジムなども完備といったゴージャスさで、元気なシニアがそこで第二の人生を謳歌していた。

こういったホームは「健康型」といい、その多くが常時介護が必要になったら退去しないといけないという非常にシビアな面を持っていた。介護が受けられる「介護付き有料老人ホーム」とは別物なのだ。

そもそも老人ホームというと、介護を受けるためのもので、それも介護が必要になってから入るものだと思っている人は多いのではないだろうか。昔多かった「健康型」ホームは今はすっかり下火になったが、では「やすらぎの郷」のように元気な高齢者が入るホームはないのだろうか。

■元気な高齢者でも入れる老人ホームはあるか?

答えは、「ある」。それが「入居時自立型」というホームだ。

有料老人ホームの種類について簡単に解説しておこう。有料老人ホームは、入居する時点の身体状況によって「入居時自立型」「介護型」「混合型」に分けられる。「介護型」とは、入居時に介護が必要な人が介護を受けるために入居するホーム。「入居時自立型」は名前のとおり、入居するときに介護が必要ではないことが条件だ。「混合型」はそのどちらでも受け入れる。

「入居時自立型」は、将来介護が必要になってもホームで介護サービスを受けて、住み続けることができる。その際、それまでの部屋から介護専用の部屋に住み替えることになる。これも、本人がどうしても今までの部屋にいたいと言えば、無理に住み替えなくてもいいのだが、介護用の居室の方が介護を受けるには適しているので、本人も快適なはずだ。

ともかく、その「入居時自立型」のホームなら「やすらぎの郷」のような生活は可能。マンションに住んでいる感覚で、ホームから職場に通勤するような人さえいる。

■「やすらぎの郷」のような老人ホームは実在するのか?

さて冒頭の問いに戻ろう。「やすらぎの郷」のようなホームは実在するか? これも、「ある」だ。

海を臨む広大な敷地に点在するコテージ。朝は屋外で体操、食事は広いレストランで。病院も併設されている……そんな自立型の有料老人ホームは、実際にある。さらにホーム内の大浴室は温泉だったりもする。リゾートホテルに長期滞在しているようなものだ。

ただし、いいことばかりではない。これら贅沢な環境がデメリットになることもある。海に近いと湿度が高く、蒸し暑い。海風も強い。それから、リゾート地だと場所にもよるが都心からは2時間程度はかかり、最寄り駅からも遠いことが多い。ホームのバスが運行しているとしても、交通の便は決してよくない。だから、家族が入居している親や祖父母を訪問しようとしてもそう頻繁には来られない。

元気なうちは自分から出かけていけるが、介護が必要になったときに家族とはそうそう会えないと覚悟はしておいた方がいいだろう。

■入居後に認知症が進んだらどうなる?

「やすらぎの郷」では、認知症が進んだ有馬稲子扮する及川しのぶが「やすらぎの郷」を出て、どこか遠くの別施設らしきところに入った。しかし実際の自立型の有料老人ホームとしては、これはNGだ。

認知症の人にとっては、環境が変わることが一番ダメージが大きいのだ。認知症が進んでも、住み慣れたホーム内で介護を受けて、最期まで安心して暮らせなくては介護付き有料老人ホームの意味はない。

ただし、認知症により暴力的な症状が出た場合などは退去してもらうといった契約になっている場合もあるので、ホーム入居の際は「重要事項説明書」をじっくり確認してほしい。

及川しのぶのことは置くとして、「やすらぎの郷」のように医師や看護師が常駐しているホーム、さらに欲を言えばクリニックが併設されているホームは、終の棲家としては大いにおすすめできる。運営するのが別法人だったとしても、隣にクリニックがあるだけでも違う。

「やすらぎの郷」の場合は、理事長が医師という点も魅力だ。ドラマでも、八千草薫扮する”姫“は「やすらぎの郷」の中にある病院で看取られている。

ホームには必ず協力医療機関があって、毎月の健診などに来てくれたりするが、いざというときにすぐに診てくれるわけではない。クリニックが隣接していても一般の患者より診察が優先されるわけではないが、診察まで部屋で待機できるなど何らかの優先措置はある。高齢になるほど病気が増えるので、看護師が常駐しているだけでも上出来だ。

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以上、「やすらぎの郷」のような老人ホームは実在するのか?について検証してみた。結論としては「ある」だが、最後に付け加えて置かねばならないことがある。

「やすらぎの郷」は、これまで解説してきた条件がすべて揃ってしかも無料!という夢のようなホームだったが、実在するリゾート型の自立型ホームは、かなり高額である、ということだ。

身も蓋もないようだが、それが現実だ。当然ながら、ドラマのようにはいかないのが人生なのだ。

取材・文/坂口鈴香
終の棲家や高齢の親と家族の関係などに関する記事を中心に執筆する“終活ライター”。訪問した施設は100か所以上。20年ほど前に親を呼び寄せ、母を見送った経験から、人生の終末期や家族の思いなどについて探求している。

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