写真・文/柳澤史樹

気が向いたらいつでもエンジンをかけて出発。絶景の景色を見つけたらそこが今日の宿泊地。朝日を浴びながら目覚めたら、また次の絶景の地を目ざして出発。そんな夢のような生活を実現できるのが、「モーターホーム」です。

ヨーロッパで発祥、アメリカで驚異的に発展した、宿泊機能をもつ家車(いえぐるま)は、日本では「キャンピングカー」と呼ばれるのが一般的です。しかしモーターホームは、快適な生活と同様の機能やインテリアを備え、レジャーはもちろん、オフィスなど、あらゆる用途に使えるように製作されたものを指します。

これから数回にわたって、このモーターホームを普及すべく取り組んできたパイオニア「Mr.モーターホーム」こと戸川聰さん(80)に、モーターホームの魅力について伺っていきます。1回目の今回は、そもそも戸川さん自身がモーターホームに魅せられ、やがて独自の車種開発に関わるようになった経緯について伺います。

「Mr.モーターホーム」戸川聰さん

■モーターホームとの運命的な出会い

元は「カンツォーネ歌手」として社会人デビューしたという戸川さん。クラブやライブハウスを流しながら、歌と軽快なトークで人気者となり、高名なシャンソン歌手である石井好子さんに見込まれますが、ある女性と大恋愛の末、歌手の道を断念したというロマンチストです。

音楽の道を諦めた戸川さんはその後、有線放送や百科事典のセールスマンなど、持ち前のバイタリティでさまざまな仕事を経験。そんななか、外資系の会社でトップセールスを収めアメリカ旅行へ招待され、そこで初めてモーターホームに出会います。

ワイオミング州のグランドティトンという山をバックにモーターホームが佇む美しいその景色は、彼が青年時代に観たアメリカ映画「シェーン」のラストシーンの背景を想い出させました。

戸川さんは「この景観を日本でもつくり出したい!」と強く思い、モーターホームライフを日本に紹介することを思い立ったそうです。

グランド・ティトン国立公園

しかし時は1970年代半ば。まだ本格的なキャンプ用品店も日本に数店舗、RV車はおろかRVパーツもほとんどないという状況で、戸川さんは中古モーターホームを用意し、料理から運転までが入ったパッケージキャンプツアー 「小さな冒険の旅TREX」を主宰しながら、お客様の開拓に乗り出します。

ここまででも十分凄い運と手腕の持ち主である戸川さん。しかし彼の夢は、この程度で終わるようなものではなかったのです。

■日本に合ったオリジナルモーターホームを開発

その後、国内で順調にモーターホームファンを増やしていった戸川さん。しかしそれまで日本に入ってくるモーターホームは、インフラの整った北米環境の車両を日本で使うときの不便さを感じていたそうです。

そこで戸川さんは、独学で学んだ専門的知識を活かし、日本の環境にあったモーターホームを作ってしまうことにしました。

コンパクトボディーと居住性とを両立させるという開発コンセプトに徹底的にこだわり、二重窓や床・壁の厚さ、水タンクの大きさからシンクの寸法まで、細部まで精密にスケッチしたものをカナダのコーチビルダーに発注。そしてついに1993年、戸川さんのオリジナルモーターホーム「B.C.ヴァーノン」第1号が完成したのです。

シャシーはフォードE350

まるで家のような車内

運転席側の上部がベッド

後部にはキッチンやトイレ

デビューした「B.C.ヴァーノン」は人気車種となり、24年経ったいまでも、エンジンもすこぶる快調で、元気に活躍しているそうです。

B.C.ヴァーノン第1号車発売当時のパンフレット

戸川さんの「B.C.ヴァーノン」は、逐次改良を加えながらも、その後バリエーションが増加。2002年、諸事情により製造中止されるまで、実に338台が納車されました。

■モーターホームライフの普及に邁進

また、オーナーさんを中心に発足したモーターホームクラブ「T.A.S(トレール・アドベンチャー・スピリッツ)」は、毎月1回のミニキャンプ、そして年1回全国各地からオーナーが集まるラリーを開くなど、モーターホームライフの楽しさを普及しています。

また戸川さんは昨年、自身が世に送り出したB.C.ヴァーノンの整備が可能な「トレックス・ガーデン」をJR横浜線の相原駅そばにオープン。ビジネスパートナーの佐藤さんとともに、モーターホームライフの普及に邁進されています。

※ちなみに現在「トレックス・ガーデン」では、オーナーさんが乗ったB.C.ヴァーノンを、引退や新車乗り換えの際にここに託し、新しいオーナーさんを探しています。

トレックス・ガーデン

遊びココロあふれるオフィス

ビジネスパートナー佐藤さんと

それにしても、モーターホームの魅力はもちろんのこと、戸川さんの少年のような笑顔を前にお話を伺っていると、この人の情熱と魅力に、皆がワクワクして惹き込まれてきたんだろうなと思わされます。

今後はモーターホームの選び方や開発のこだわりなど、ひきつづきお伝えしていきます。冒険心、快適さ、そして何といっても自由な生き方をしてみたいという方にはお勧めです。

写真・文/柳澤史樹
フリーライター/ 自分史アドバイザー。歴史を楽しむ情報サイトや企業ファンサイトのマネージメント、ビジネスコンセプトやコピーの執筆、多数の著名人取材などの他、現在は一般社団法人 自分史活用推進協議会認定 自分史活用アドバイザーとして、個人の軌跡を残す「自分史」を活動の軸とする。2016年暮れ、地元横浜から相模原市緑区へ引越し、農的暮らしと執筆生活の両立へシフトチェンジ中。

 

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