文/酒寄美智子
今年は1467年の応仁の乱勃発から550年。中公新書『応仁の乱 戦国時代を生んだ大乱』(呉座勇一著、中央公論新社)の大ヒットで、この大乱が今、かつてない注目を浴びています。
応仁の乱は、終結まで11年という年月がかかりました。そこで、なぜそこまで長引かなければならなかったのかという点に着目し、大ヒットした『応仁の乱』を読み解く本稿。
今回は、東西両軍を束ねた将の退場とその後に焦点を当てます。
■戦乱の終結へ、最大のチャンス到来!
文明4(1472)年正月、東軍・細川勝元(ほそかわ・かつもと)と西軍・山名宗全(やまな・そうぜん)の間で和睦交渉が始まりました。
長引く戦で両軍が疲弊していたことに加え、前年には赤痢・疱瘡も大流行。「もう戦を終わらせたい」という思いはすでに両軍に広がっていました。中でも西軍は相次ぐ敗戦で越前、瀬戸内、東国からの補給路を絶たれ、劣勢覆いがたい状況だったのです。
しかし、和睦交渉が実を結ぶことはないまま、勝元・宗全はそれぞれ家督を後継に譲り、隠居。2人のこの行動を、本書の著者で、日本中世史を専門とする著者の呉座勇一さん(日本史学者、国際日本文化研究センター助教)は痛烈に批判しています。
「両軍の首脳が表舞台を去ったことで、諸将を束ねる存在が失われた。宗全と勝元が真になすべきだったのは、諸将を説得して正式な講和交渉を始めることだったが、彼らはおのおの政権を投げ出すかたちで辞任してしまった。諸将は思い思いに戦闘を続け、大乱はだらだらと続いたのである」(本書より)
そして文明5(1473)年3月には山名宗全が70歳で他界。その2か月後には、細川勝元も44歳の若さで亡くなりました。
文明6(1474)年2月、両将の後継・山名政豊(やまな・まさとよ)と細川政元(ほそかわ・まさもと)の間で講話交渉が再開。東軍の赤松政則(あかまつ・まさのり)、西軍の畠山義就(はたやま・よしひろ)が抵抗したものの、4月には両名の会談が実現し、和睦が成立。その後、山名氏は東幕府に降伏するかたちになりました。
乱勃発からおよそ7年を経てめぐってきた、乱終結への最大のチャンスです。
しかし、乱はまだ幕引きとはなりませんでした。
■乱終結を遠ざけた畠山義就の執念
このタイミングで乱が終わらなかった理由を、呉座さんはこう綴っています。
「応仁の乱は、山名宗全が畠山義就を抱き込んだことで始まった。山名宗全と細川勝元という両軍の総帥が没し、山名・細川両氏の間で和議が成立したにもかかわらず大乱が続いたのは、あくまで畠山政長打倒を目指す畠山義就が反細川の大内政弘を巻き込んで徹底抗戦したからである」(本書より)
大内政弘(おおうち・まさひろ)といえば、西軍を支えるため乱勃発直後に大軍を率いて上洛し、東西両軍の勢力拮抗をもたらした人物。この大内政弘、そして畠山義就が戦をやめようとしなかったため、乱は続きました。
その後、西軍内で急速に発言力を強めた斎藤妙椿(さいとう・みょうちん)が大内政弘・畠山義就両名をたきつけたこと、終戦工作を託された新将軍・義尚の叔父(日野富子-ひの・とみこ-の兄)である日野勝光(ひの・かつみつ)が文明8(1476)年に死去したことにより、終戦は再び遠のいてしまったのです。
応仁の乱勃発から、9年の歳月が流れていました。
■獲得目的が急増…誰も望まぬ長期化
畠山家の家督争いに新興勢力・山名氏と覇権勢力・細川氏のあつれきが絡み、諸大名を巻き込んで拡大した応仁の乱は、両軍の総大将・宗全と勝元の退場により“船頭多くして船山に登る”状態に突入していきました。
「細川・山名という二者間の利害対立だけが問題ならば、当事者同士の交渉で妥協可能だった。(中略)けれども、勝元と宗全が多数の大名を自陣営に引き込んだ結果、戦争の獲得目的は急増し、参戦大名が抱えるすべての問題を解決することは極めて困難になった。しかも長期戦になって諸大名の被害が増大すればするほど、彼らは戦争に見合った成果を求めたため、さらに戦争が長期化するという悪循環が生まれた」(本書より)
もはや大義は見失われ、乱は誰も意図しないままに長引いていったのです。
今回は、東軍と西軍を率いた2人の将、山名宗全と細川勝元の退場についてお伝えしました。詳しくは、ぜひ本書をお読みください!
次回は最終回、10年以上続いた応仁の乱の「幕引き」について、引き続き『応仁の乱 戦国時代を生んだ大乱』(中公新書)から読み解きます。
【参考書籍】
『応仁の乱 戦国時代を生んだ大乱』
(呉座勇一著、本体900円+税、中央公論新社)
http://www.chuko.co.jp/shinsho/2016/10/102401.html
文/酒寄美智子
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