文/一乗谷かおり

猫を飼いたい! そう思ったときに、ペットショップで猫を商品として購入するのではなく、保健所や猫の保護団体などから「保護猫」を家族として迎える、という選択肢があることが、広く知られるようになりつつある。「猫ブーム」といわれる中で、猫たちが注目されることによって、保健所での 「殺処分ゼロ」達成を発表する地方自治体も増えてきた。

実際、猫に関するデータを見てみると、収容される猫の件数や殺処分数は年々減少し、里親や保護団体によって引き取られる猫の数は増加している。保健所に収容されても、殺処分されることなく、里親やボランティア団体によって命を救われる猫が増えているのだ。

※都道府県・指定都市・中核市における猫の引取り状況(単位=頭)
(環境省自然環境局総務課動物愛護管理室の統計資料より)

年度 収容数 返還・譲渡数 殺処分数
平成23年度 143,195 12,680 131,136
平成24年度 137,745 14,858 123,400
平成25年度 115,484 16,320 99,671
平成26年度 97,922 18,592 79,745
平成27年度 90,075 23,037 67,091

 

先日、某県の知事が2年連続で殺処分ゼロ達成を発表し話題を集めた。全国で「殺処分ゼロ」の政策を掲げる自治体も続々現れている。「不幸な猫を減らす」取り組みが広がっていくことは喜ばしいことだ。

しかし、殺処分ゼロ実現の背景に、保健所などに収容された猫たちを引き取る保護団体が存在することを忘れてはならない。

様々な境遇から救われた保護猫たちが暮らすシェルター。

過去5年間で640頭以上の猫たちを保護、新しい家族を見つけて送り出してきた保護団体「猫の方舟レスキュー隊」代表の秋葉雅子さんはこう語る。

「これまでに100頭以上の猫たちを、東京都動物愛護相談センターより引き取らせて頂きました。引き取った猫たちのうち、約9割はそのままセンターにいたら確実に殺処分されていた猫たちです。誰にも引き取ってもらえない猫たちを引き取る目的は、猫たちの殺処分をゼロにしたいという思いからです」

秋葉さんらは、東京都動物愛護センターから引き取った猫を自分たちが運営するシェルターで世話をしながら、里親探しに奮闘した。その結果、シェルターで息を引き取った高齢猫を除いたほとんどの猫たちに新しい家族を見つけ、譲渡することができたという。

飼い主が他界し、センターに収容された高齢猫のやや。秋葉さんによって救い出され、今は新しい家族と幸せに暮らしている。

愛護センターからの引取り以外にも、同団体では野良猫(主に虐待された猫、負傷猫、子猫)や飼い主に見捨てられた猫、多頭崩壊現場から救出した猫などをシェルターで世話をしている。

中には人に馴れていない猫もおり、少しずつ飼い猫修行をさせながら、定期的に開催している里親会で生涯愛情を注いでくれる家族を探している。

シェルターにきてからもなかなか人に馴れない猫もいる。長毛三毛の蘭は飼い猫だったが、家の中で放置されていたため、今、改めて飼い猫修行をしている。

しかし、すべての猫に里親が見つかるとは限らない。なかなか家族が見つからず、何年もシェルターに留まっている猫たちもいる。

保護した全ての猫たちが若く、健康で、人馴れしているわけではなく、受け入れられる数には限りもある。秋葉代表が語る。

「里親さんを見つけて譲渡しても、またすぐに別の猫がシェルターにやってきます。いつもシェルターは保護した猫でいっぱいの状態。イタチごっこのようです」

やはり高齢の飼い主が他界し、行き場を失ってセンターに収容された高齢猫の健太郎。3年ほどシェルターで過ごした後、秋葉さんのシェルターで亡くなった。

行政による殺処分の減少は、こうした保護団体の活動によるところが大きい。しかし、このままでは保護団体が疲弊していくことは明らかだ。既にパンク寸前、悲鳴を上げている団体や個人のボランティアも少なくない。

不幸な猫を減らすにはどうしたらいいのか。保健所に持ち込まれてしまう猫を減らすためには、野良猫の不妊・去勢手術の推進は必須だ。手術には高額な費用がかかるため、自治体による補助金の充実も課題だろう(補助金の出ない自治体ある)。

また、ペットショップでの生体販売の制限も必要という意見も根強くある。ペットショップの今後の役割として、生体販売をするのではなく、本当に良質なブリーダーと人との懸け橋になるべきでは、という意見だ。

だが、何より大切なのが、「ペットは家族という意識をもってもらうこと」ではないだろうか。家族だったら簡単に捨てるという選択はとられないはず。この当たり前のことが共有されることで「捨てられる猫」は減っていくのではないだろうか。

折しも学校教育での「道徳」授業の問題が話題になっている。捨てられる猫の存在、殺処分ということがあるという現実は、命の大切さを知ってもらうという意味で恰好の素材になると思うのだがいかがだろうか。

文/一乗谷かおり

【参考図書】
『わさびちゃんちのぽんちゃん保育園』
(著/わさびちゃんファミリー、本体1,000円+税、小学館)
https://www.shogakukan.co.jp/books/09343443

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わさびちゃんにまつわるシリーズの第3弾『わさびちゃんちのぽんちゃん保育園』(小学館)

■わさびちゃんファミリー(わさびちゃんち)
カラスに襲われて瀕死の子猫「わさびちゃん」を救助した北海道在住の若い夫妻。ふたりの献身的な介護と深い愛情で次第に元気になっていったわさびちゃんの姿は、ネット界で話題に。その後、突然その短い生涯を終えた子猫わさびちゃんの感動の実話をつづった『ありがとう!わさびちゃん』(小学館刊)と、わさびちゃん亡き後、夫妻が保護した子猫の「一味ちゃん」の物語『わさびちゃんちの一味ちゃん』(小学館刊)は、日本中の愛猫家の心を震わせ、これまでにも多くの不幸な猫の保護活動に大きく貢献している。

 

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