文/一乗谷かおり

ゴールデンレトリーバーの女の子、ぽんず(愛称・ぽんちゃん)とかわいい子猫たちの仲良し写真満載の『わさびちゃんちのぽんちゃん保育園』(小学館)。カラスに襲われて大けがをした子猫を、父さんと母さんが保護したことから物語は始まりました。

父さんと母さんの飼い犬ぽんちゃんは、わさびちゃんと出会うまでは猫との接点はありませんでした。でも、わさびちゃんがやってきてからは、遊び相手になったり、ごはんの時にお手伝いをしたり、かいがいしく面倒をみてくれました。

初めてわさびちゃんと出会った時、ぽんちゃんは母さんの言いつけを守って、おとなしく見守りました。

わさびちゃんが体調を崩すと、すぐに母さんを呼びに行くといった、責任感のある行動も見せてくれました。

ベストフレンドになったわさびちゃんとぽんちゃん。

その後も、父さんと母さんが子猫たちを保護してくるたびに、ぽんちゃんと子猫たちが寄り添って寝たり、一緒に遊んだりする仲睦まじい様子が話題を呼び、いつしか「ぽんちゃん保育園」と呼ばれるようになったのです。

■犬の母性を引き出した子猫たち

犬と猫という、種の異なる動物同士がこんなにも仲良くなれる。ぽんちゃんと子猫たちの触れ合いを見て、ほんわかした気持ちと同時に、驚きを感じた人も多いのではないでしょうか。動物行動学の世界では、犬が猫などの小動物に対して保護者のような行動をとるのには、複数の要因があるといいます。

まず、女子犬の中には、子供を産んでいなくても母性を発揮して育てようとすることがあります。ぬいぐるみを抱え込んでお乳をあげようとする女子犬もいます。

ぽんちゃんはよく、子猫を鼻でつつくような仕草をします。これは、よちよち歩いて離れてしまう子供を、鼻でつついて自分のところに転がし戻すという母犬の習性による行動です。吐き戻しを舐めさせるという犬流の離乳の仕方まで、子猫たちに教えているようです。

保護猫園児たちのお世話をするぽんちゃん園長先生。ケースから出てしまう子猫を押し戻すことも。

また、ぽんちゃんは子猫が成長する過程で、遊びを通して捕食行動の学習もさせています。子猫たちがぽんちゃんにじゃれたり、噛みついたりするのを自由にさせつつ、あまり行動がエスカレートする場合はダメという仕草でやめさせます。犬の言葉を猫は理解できませんが、柔軟性のある子猫たちは、ぽんちゃんの伝えたいことを敏感に感じ取って、学習しているようです。

また、幼くて弱いものを守ろうとする「コンカベーション」と呼ばれる本能もあります。くりくりっとした大きな目の愛らしい赤ちゃん動物を前にすると、男子犬でも保護本能が働くことがあります。

さらに、個々の動物の性格も関係してきます。子犬の頃から他の動物と一緒に過ごしていれば別ですが、おとなの犬の場合、小動物に対して吠えてしまったり、一緒に遊んでいるつもりでもついハンターのスイッチが入って捕食行動が出てしまったりします。猫に対しても、犬側が慣れていなければ、吠えてしまうこともあるそう。

でも、父さんと母さんのしつけやぽんちゃん自身の温厚な性格から、ぽんちゃんにとって子猫たちは、いつくしみ、守るべき対象となったといえそうです。

もうひとつ、ぽんちゃんと子猫たちのケースでは、母さんがとった作戦が功を奏したようです。母さんは、わさびちゃんとぽんちゃんをいきなり対面させるのではなく、徐々にお互いの存在を意識させ、馴らしていく方法をとりました。

最初のうちは、わさびちゃんの姿が見えないように別の部屋に隔離。でも、犬のぽんちゃんは「あの部屋に何かいる!」と気になって仕方なかったはず。ただ、その「何か」は母さんや自分に害をなす危険な生き物ではなさそうであることが、だんだんわかってきたところで、ようやく対面をさせました。

犬種によっては捕食本能の方が勝ってしまったり、警戒心から吠えてしまったりすることもあったかもしれません。でも、そうしたこともなく、じっと観察した末に対面できたことが良かったようです。

じゃらしで子猫たちをあやそうとするぽんちゃん。

「触っちゃダメだよ」という母さんの注意をちゃんと守ったことで、ぽんちゃんは母さんに誉められたと認識し、「この小さな生き物と仲良くすると、母さんも喜んでくれる!」と思ってくれたのではないでしょうか。これも、このかわいい異種コミュニケーションを成功させた大きな要因のひとつといえそうです。

文/一乗谷かおり

【参考図書】
『わさびちゃんちのぽんちゃん保育園』
(著/わさびちゃんファミリー、本体1,000円+税、小学館)
https://www.shogakukan.co.jp/books/09343443

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わさびちゃんにまつわるシリーズの第3弾『わさびちゃんちのぽんちゃん保育園』(小学館)

■わさびちゃんファミリー(わさびちゃんち)
カラスに襲われて瀕死の子猫「わさびちゃん」を救助した北海道在住の若い夫妻。ふたりの献身的な介護と深い愛情で次第に元気になっていったわさびちゃんの姿は、ネット界で話題に。その後、突然その短い生涯を終えた子猫わさびちゃんの感動の実話をつづった『ありがとう!わさびちゃん』(小学館刊)と、わさびちゃん亡き後、夫妻が保護した子猫の「一味ちゃん」の物語『わさびちゃんちの一味ちゃん』(小学館刊)は、日本中の愛猫家の心を震わせ、これまでにも多くの不幸な猫の保護活動に大きく貢献している。

 

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