写真はイメージです

「EXPO 2025 大阪・関西万博」の開催まで300日を切り、各地でカウントダウンボードが設置された。この万博は、環境、ロボット、芸術などのプログラムがありつつ、“個”にスポットを当てた対話型での考察の場が持たれるのも特徴だ。今、注目されている、“よく生きる”ということについても「一人ひとりのウェルビーイングが共鳴する社会をどう実現するか?」というテーマが設けられている。

「よく生きる、とはよく働くことでもある」という信一さん(64歳)は、IT関連会社を定年退職したあと、都心の風呂なしアパートに住み、配達のアルバイトを掛け持ちしているが、「今が一番幸せ」と言う。

彼は都心近郊の国立大学を卒業後、IT関連会社に入り、50歳で執行役員になる。当時の年収は1千万円をゆうに超えていた。現場で働くことが大好きな信一さんは、管理職を拒否していたが、組織はそれを許さない。55歳のときに転職しようとするも、妻から大反対を受け、「座って高給をもらうだけ」という仕事を60歳まで続けることにする。

【これまでの経緯は前編で】

60歳で定年したら、一人暮らしをすると決意

妻と決裂した55歳のときから、60歳以降のプランを考えていたという信一さん。

「晩年、禅宗に傾倒していた父の影響もあるのか、持たない生活というのがいいなと。というのも、妻の所有物で埋まっている自宅で生活していたから。5客セットのティーカップが50セット入っている物置がありましたからね。他にも妻は食器道楽でテーブルコーティネート用のよくわからない布やグッズ、好きなアーティストのブロンズ像、巨大ワインセラーもありました。あとは、何百着もの服、そして靴やバッグ。どれもきちんとメンテナンスされてしまってあるんですよ、ゾッとしますよね」

コンパクトな生活に憧れ、小さなマンションを購入して、そこで暮らすなどのプランを立てたがしっくりこない。

「家を所有してしまえば、固定資産税や管理組合、自治会などの問題がつきまとう。掃除も大変だし、どうしようと。いろいろ考えた挙句、最もしっくりきたのが、銭湯が近くにある都心の風呂なしアパート生活だったんです」

仕事の合間を見て、街を歩き回り、自分と相性がいい街を求め続けた。SNSで繋がった仲間と、街歩きを通じて顔見知り程度の関係を築き、維持していった。

「あとは体力作り。SNSで知り合った人が、健康関連の仕事をしており、自己流のストレッチはダメだと教えてくれたので、プロのトレーナーに“長く使える体”と依頼し、専門的なやり方を教えてもらいました。オプションの骨格矯正や減量のためのEMS(体に電気刺激を与える施術)も含めて体の改善に60万円くらいかかったかな。さらに料理も習いました」

SNSでは懐かしい再会もあった。大学時代の同級生から連絡があったという。

「そいつは妻と死別して、一人。妻の面影を探しに、一緒に行っていた尾瀬や高尾山に行くという。僕も一緒に連れて行ってほしいというと歓迎してくれた。それがすごく楽しい。山小屋の人とも友達になったし、自然の中にいると、世界がどんどん広がっていく」

55歳から、自分の人生を考え直し、いきいきとしてきた信一さんに対し、妻は浮気を疑う。

「どうも探偵をつけていたみたいです。前から“合わない”と思っていましたが、それを知って嫌悪するようになった。60歳で定年したら、離婚するか別居しようと思い続けていました。きっと金にうるさいし、プライドも高い。幸い、家計は私が妻に給料の3分の2を渡すという取り決めだったので、それなりに貯金もある。僕が頭金もローンも払った自宅マンションを手放すことにためらいはない。まずは荷物整理を始めました」

3畳の自室には、ないと思っても膨大な荷物があった。本とレコードを売り払い、時計やスーツ、コレクションしていた記念切手などは5年かけて現金に変えていった。

「スーツ30着、靴20足、腕時計20個、本3000冊、レコード1000枚を現金化したら、数百万円になりました。金額の大部分は時計ですけどね。息子でもいれば譲れたのですが、女の子だから。私の姉は結婚していないし、行き場がない。大切にしている人に使い繋いでもらいたくて、譲りました。いい腕時計は資産になる」

妻は異変に気づかなかったという。「それまでの夫婦関係ってことですよ」と振り返る。

【「みっともないから離婚したくない」……次のページに続きます】

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