2024年5月9日、調査会社・帝国データバンクは、スポーツ業界の景況感のレポートを発表。「景気が良い」と回答した企業が2割にとどまったことがわかった。コロナ禍で中止となっていたスポーツイベントが再開し、夏にはフランスの首都パリでオリンピックも開催される。それなのに、「景気がいいとはいえない」と考えている企業が多いのだ。その背景には、円安での原材料や輸入品の価格高騰などがあるが、流行の推移の早さもあるのではないだろうか。
雅彦さん(65歳)は大手飲料メーカーを60歳まで勤務し、定年を迎えてから約5年間、念願のゴルフバーを経営する。しかし、今年の春に店を閉めたばかりだという。「赤字がこれ以上かさまないうちに、畳みたかった」と語る。
【これまでの経緯は前編で】
15歳年下の女性に恋をする
離婚した後は、雅彦さんは下町エリアのマンションに住んでいた。会社の近くとはいえ、なぜこのエリアに住むことにしたのだろうか。
「会社まで電車で1本で、便利なのに家賃が安い。あとは、交際している女性がそこに住んでいたから。彼女と出会ったのはスナックです。離婚して、家の売り先も決まらず、落ち込んでいたときに、スナックに入り浸っていた時期があったんです。ああいうお店のママって、“大変だったわね”、“大したことないわよ”、“これから人生バラ色よ”と励ましてくれる。それが当時の自分には、涙が出るほど嬉しかった」
雅彦さんが離婚したのは2000年ごろだ。当時は女性の社会進出も進んでおり、働く女性も増えていた。スナックに仕事の疲れを癒しにくる女性も少なくなかった。
「そこで出会ったのが、当時25歳だった彼女。自分に15歳年下の女性が言い寄ってくるなんて思わなかったです。結婚している間の浮気はありません。先輩に誘われたり、接待の一環で女性がいる店に行くことはありましたけれど」
ここでおそらく、人生初めての恋をし、彼女の魅力にのめり込んでしまった。妻子を顧みなかった雅彦さんが、携帯のメールで、「今日は会える?」などと送るのだ。返事が来ないと不安になったこともあったという。
「短大卒の妻とは異なり彼女は名門私大を出ており、仕事をしているから会話が多角的。市場分析から、アートまでなんでも語れる。デートでイカスミのパスタを食べながら、“イカは敵に襲われたとき、スミを敵に食べさせている間に逃げるの”などと教えてくれる。そういう話に中年男のハートは掴まれてしまう」
雅彦さんも接待ゴルフと毎日のランニングで鍛えられた体があり、容姿も整っている。彼女が年上の男性の落ち着きに惹かれるようになるのもわかる。
「一度、家に遊びに行ったことがあるんです。昔からの大きな家で、玄関に花が飾ってあって、台所からは切り干し大根の煮付けの匂いがする。“愛されて育った健康で賢い娘なんだな”と感動してしまいました」
彼女は丸の内の財閥系の企業で一般職で勤務していた。キャリアアップも怠らず、宅地建物取引士の勉強をしたり、英語のレッスンに通ったりしていた。
「仕事に集中していれば安泰なのに、なぜ勉強するのかと聞いたら、“会社がなくなったら、私のスキルは使いものにならないから”と言う。それを聞いてショックを受けました。それは私もそうだと。そのときから、今後の人生について考え始めたのです」
そこで、店の経営を思いついた。新人時代に営業に回った飲食店、離婚後に癒されたスナックなど飲食店には存在意義があり、参入障壁も低い。
「料理人を雇うのはお金がかかるし、巨額の設備投資とコネがいる。となると、バーしかない。自分を中心に、時々人を雇う。繁盛するバーには、お酒のほかにもう一つ要素を足さねばならないなどと、50歳を超えたあたりから徐々にプランを練り始めたのです」
その背景には、役員になるのは絶望的だったという背景もある。
「それに気づいたのは、46歳ぐらい。そのときは彼女とも別れ、心が荒んでいた。明らかに出世の道が先細っているのを感じたのです。言葉は悪いですが、“あ、女にも会社にも捨てられたんだな”という気持ち。私が作り上げた利益を会社は飲み込み、その対価としてお金と世間体をくれる。会社と私の関係はそれだけ。体温も湿度もない無機的で冷徹な繋がりなんです。”数字を作る”ことに打ち込んでしまった自分の人生が、ちょっとバカらしくなった。他人からの評価に左右され、妻子も彼女もいなくなり、何をやってきたんだと」
その空虚な思いを、定年後に開業する店にぶつけ始める。
【定年起業の鉄則は、入念な準備。2年前から物件の選定に入っていた……次のページに続きます】