父は弟に甘く、弟は親分風を吹かす偉そうな経営者になっていた

和明さんは小学校時代からの夢である、会社員になる夢を叶え、順風満帆の人生を送っていた。

「息子の不登校とか、娘の反抗期とか色々あったけれど、大きな問題はないですね。一番ドキドキしたのは、カミさんが乳がんになったこと。でも、カミさんは理学療法士で病院に勤務しているから、違和感があった瞬間に乳腺外科の検査を受けて、すぐに手術。寛解して今も元気です。子供達もすでに結婚し、独立しています」

実家は1990年代後半に、弟が継いだという。当時、運送業は大手が席巻して行き、事業運営が厳しくなっていた。そこで、弟はコンビニと飲食店経営に事業転換する。

「僕はやめた方がいいと思ったけれど、父と弟がやりたいと言っているからいいかなと。運送業を続けていても、茨の道だったしね。当時は“コンビニが儲かる”とされていた時代で、弟はロイヤリティや手数料のことはあまり考えていなかったんじゃないかな。コンビニにせよ、飲食店にせよ人の輪の中心にいる弟らしい選択だな、と思いました」

実家にはお盆と正月の年に2回帰省して、1泊して帰る程度の関わりだった。

「カミさんと子供たちは、近くの温泉に泊まり、僕は実家。うちの親はブーブー言っていましたけどね。弟は35歳のときに代表になり、社長らしい顔つきになって、景気がいい話ばかりしているから、まあうまく行っていると思っていました。弟の奥さんも子供達もなんか偉そうでね。近寄りたくなかった」

弟には華やかな魅力がある。ちょっとしたカリスマ性のようなものがあるから、父も強くは言えなかった。

「ガレージに高級車の新車があって、驚きましたよ。これを見た社員は何を思うか、と。自分たちが稼いだ金で、経営者がいい車に乗っていたらやる気もなくすだろうな、って。弟は細かいことを考えないから、父の側近の専務や副社長がサポートしているんだろうと想像がつきました」

実家のことを考えなくてもいい安心感から、和明さんは自分の仕事に夢中で取り組んだという。

「環境を改善し公害を対策するコンサルティングを行なう自分の仕事が、社会を良くすることにつながっていることに、本当の意味で気づいたのは、40代半ば。部下を育成して、管理して、営業成績を上げることは難しく、苦しいこともあるけれど、その先に“社会を良くする”という喜びがある。これは、子供がいるからそう思うのかもしれないし、教育を受けて知識と経験があるから、そう思えるのかもしれない。おそらく、弟は目先の利益に追われていて、この喜びは知らないんじゃないだろうかと思いました」

喜びを知ってからのキャリアは短い。60歳の定年があるからだ。

「延長して働くかと言ったら、それはできない。体力がないし、下が活躍できないからね」

【定年後、妻と旅行をして、のんびり過ごす予定だったのに、弟が急死する……その2に続きます】

取材・文/沢木文
1976年東京都足立区生まれ。大学在学中よりファッション雑誌の編集に携わる。恋愛、結婚、出産などをテーマとした記事を担当。著書に『貧困女子のリアル』 『不倫女子のリアル』(ともに小学館新書)、『沼にはまる人々』(ポプラ社)がある。連載に、 教育雑誌『みんなの教育技術』(小学館)、Webサイト『現代ビジネス』(講談社)、『Domani.jp』(小学館)などがある。『女性セブン』(小学館)などにも寄稿している。

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