「いつか、自分の経験をまとめた本を執筆して出版してみたい」――人生でさまざまな経験をしてきたサライ世代の人たちが一度は思うことかもしれません。しかし、実際に自著を出版できるのは、ほんの一握りの人に過ぎません。では、どんな人が作家になれるのでしょうか?

『ユダヤ人大富豪の教え』(大和書房)などのベストセラーで知られる本田 健さんと、94歳の今でも作家として編集者として第一線で活躍する櫻井秀勲さんによる共著『作家という生き方』(きずな出版)には、作家という夢を叶えるためにすべきこと、作家に必要な資質、読者の心をつかむ技術などにについてまとめられています。

今回は、『作家という生き方』(きずな出版)の中から、読者を感動させること、これから生まれるベストセラーについての考察を取り上げます。

読者を揺さぶる言葉の力を磨くには?

執筆/本田 健

本を書くという行為は、単なる情報提供やノウハウの共有ではありません。
それは、言葉を通じて読者の心を揺さぶり、感動を届ける挑戦でもあります。感動は読者の行動を変え、深い記憶として残り、人生の新たなステージを切り拓くきっかけとなる力を持っています。
私自身、作家として多くの読者から感想をいただく中で、「感動を届ける言葉」の本質それは決して派手な表現や巧妙な文章術によるものではなく、作家の真摯な思いが言葉に宿り、読者の心と共鳴するときに生まれるものです。

人を感動させるって、どんなことでしょうか?

私のセミナーで、中年の男性に、「私も本田健さんのように、たくさんの人を感動させるような本を書きたいです」といわれたことがあります。
「あなたの生活には、どれだけ毎日面白いと感じることがありますか? どれくらい、毎日感動していますか?」
と私は聞き返しました。すると、
「私は普通の会社員なので、そんなに感動することがありません。せいぜい1カ月に一回ぐらいあるかないか……」
照れ笑いしながら答えてくれたその人に、
「残念ながら、いまのあなたの在り方では、人を感動させることはできないでしょう。自分の心を動かすことができなければ、人の心を動かすことはできません。
会社員でも、日常に面白い、感動することが見つけられるようになれば、100万部売れる本だって書けると思いますよ」
と、できるだけ優しく、かつ正直に答えました。その人は、やや自分の状態にがっかりしたようですが、納得してくれたようでした。

人を感動させたいのなら、まずは自分の心を動かさなければダメです。
五味康祐先生が櫻井先生のことを「誰よりも前に感動」する人としていますが、それだけ情熱を持って仕事をされていたということだと思います。
「作家という生き方」に限らず、どんな人の人生も、日常的に感情的に動きがなければ、つまらなくなってしまいます。
感情をもっと表現する生活をしていれば、人とつながれるようになります。
自分の気持ちをネガティブなことも隠さずに表現する人は、不思議なことに好かれます。
本音を隠して、いいことしか言わない人よりも、信頼されるからです。
本音をズバズバ言っているのに、なぜか好かれてしまうという人がいます。いわゆる毒舌な人は本当のことを言ってくれるので、適当なことしか言わない人よりも、人は安心するのです。

人の心を動かしたければ、本音で生きなければならないと思います。
それがなんであれ、自分の気持ちを全開にして、誰にでもドーンとぶつかっていく。そうやって本気のコミュニケーションをとれていたら、人と深くつながれるでしょう。
作家が、自分の日々感じる感情を上手に一冊の本に閉じ込めることができれば、その本は読者にとって、新たな道を照らす光となるかもしれません。その言葉に宿る感情の力が、読者の人生に寄り添い、深いところに潜む何かを揺さぶるのです。
作家として言葉の力を磨き続け、読者を感動させることは、作家自身にとっても最大の喜びであり、挑戦でもあります。

これから生まれるベストセラーとは?

執筆/櫻井秀勲

ベストセラーを出している方は、年々若くなってきました。それこそ、Z世代の著者の小説もよく売れています。これらの世代の人々は、ネットで何万、何十万人とつながっています。貴重な読者層を抱えているのです。
こういった新しい読者にふさわしい小説をテーマにすることも、非常に大切です。
「少年ジャンプ」はテーマの宝庫だ、という人もいます。ここに掲載されているマンガを、逆に活字にするつもりになると、新しい小説が書けるのでは? という人もいるくらいです。かつては小説からマンガが生まれましたが、これからはマンガから、活字の小説が出てきます。それを大人が読む時代になるのでは? と考える編集者も大勢います。

時代はどう動いていくかわかりません。私はAIを巧みに、スピーディに使う人ほど、有利になると思います。いや、巧みに使う国によって、うまく使えない国は滅ぼされると、私は信じています。人間が威張っていられるのは、あと5年くらいと、専門家は断言しています。
だとすると、AIに気に入ってもらえるフィクションを書く人がいれば、ベストセラーになるかもしれません。そういう夢物語を書ける人が、これから伸びていく可能性もあるのです。

編集者という職業は、夢物語を考えるだけで、お金になる職業です。その中でも、フィクションとノンフィクション担当者は、大きな夢、誰も考えていない夢を見なければなりません。
夢が大きければ大きいほど、新しい作家を育てられるのです。
私と同期の伊賀弘三良(いが・こうさぶろう)君(祥伝社・元社長)は、年間発行部数日本一の記録を持つ小説編集者でした。というのも小松左京の『日本沈没』と、五島勉の『ノストラダムスの大予言』の二冊を、同じ年に担当、出版した編集者です。
この二冊は、1973年(昭和48年)に出版されて、この年だけで700万部にも届いたといわれています。一人の編集者の記録としては、もしかしたら世界記録にもなるかもしれませんが、どちらも夢物語のようなフィクションとノンフィクションでした。

作家になりたければ、夢を語りましょう。
その夢が正夢になるように、作品を描いてみましょう。
私は、いまがそのチャンスだと思うのです。小説にはそんな楽しみがあるのです。

*  *  *

 作家という生き方
著/本田健 櫻井秀勲
きずな出版 1,980円(税込)

本田 健(ほんだ・けん)
神戸生まれ。2002年、作家としてデビュー。代表作『ユダヤ人大富豪の教え』『20代にしておきたい17のこと』など、累計発行部数は800万部を突破している。2019年、初の英語での書き下ろしの著作『happy money』を米国、英国、豪州で同時刊行。これまでに32言語50か国以上の国で発売されている。現在は世界を舞台に、英語で講演、執筆活動を行っている。

櫻井秀勲(さくらい・ひでのり)
1931年、東京出身。東京外国語大学を卒業後、光文社に入社、大衆小説誌『面白倶楽部』に配属。当時、芥川賞を受賞したばかりの松本清張、五味康祐に原稿を依頼。二人にとっての初めての担当編集者となる。以後、遠藤周作、川端康成、三島由紀夫など、文学史に名を残す作家と親交を持った。31歳で女性週刊誌『女性自身』の編集長に抜擢され、毎週100万部発行の人気週刊誌に育て上げた。55歳での独立を機に、作家デビュー。82歳できずな出版を起業。94歳の現在、著作は220冊を超える。


 

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