松下幸之助氏といえば、松下電器産業、現・パナソニックホールディングスを一代で世界的な企業に成長させ、「経営の神様」と呼ばれています。経営学の世界で有名人ですが、一方で、社会貢献の世界でも大きな功績を残しており、積極的に文化、教育、福祉、様々な分野で私財を寄付されています。浅草・浅草寺の雷門再建費用の寄進は特に有名で、雷門の大提灯の下部には「松下電器産業株式会社 現パナソニック株式会社 創業者 松下幸之助」の文字が刻まれています。

寄付は、松下家のように生前に行なうのが一般的でしたが、近年では相続の際に遺産を特定の団体や法人に寄付する「遺贈寄付」をするケースが増えてきています。

そこで今回は、日本クレアス税理士法人(https://j-creas.com)の税理士・中川義敬が、長年にわたる税務申告のサポートを通じて得た知識や経験に基づき、遺贈寄付について手順やそのメリット、注意点のご紹介をしたいと思います。

目次
遺贈寄付とは?
遺言による遺贈寄付をすると相続税はどうなる?
遺贈寄付するにはどうする?
遺贈寄付する際の注意点とは?
まとめ

遺贈寄付とは?

遺贈寄付とは、自身の死後に社会貢献を目的として、遺産を特定の団体または、法人に遺言によって遺産を寄付することです。

「遺贈」とは、亡くなった方の遺言に則り、法定相続人や、それ以外の人にその遺産の一部または、全部を譲り渡すことをいいます。亡くなる前に遺言を残すことで、自身の財産を特定の人に渡すことができるようになります。

「遺贈寄付」は、大きく分けて以下の3つです。

1.遺言による遺贈寄付

遺言書に自分の財産を寄付する旨を記載しておくことで、将来亡くなった際に、その遺言書の通りに寄付をすることをいい、「寄付者 = 遺言作成者」となります。

特徴として、寄付財産は遺言の効力が生じたときから寄付先に帰属することになるため、寄付先が法人の場合は、その財産は相続財産から除外されることで、相続税が課税されません(寄付先が個人の場合はこの限りではありません)。

2.相続財産による遺贈寄付

上記1と同じように思えますが、このケースでは「寄付者 = 相続人」になります。特徴として、相続により財産を受け取った相続人が、遺産を寄付先に寄付することになるため、原則として相続人に相続税の課税関係が発生します。

3.生命保険や信託による遺贈寄付

こちらは死亡保険金や、生命保険契約によって生じた利益の部分を寄付するもので、保険会社や信託銀行と連携して行なうことになります。

遺贈寄付は公共性が高く、また大きな金額になりやすいため、「人生最後の社会貢献」と呼ばれることもあります。寄付の意識が高い欧米では、古くからよく利用されてきた制度です。その公共的な慈善目的から、税制の優遇措置を受けることができます。

しかし、税制の優遇を受けられるのは、国税庁が定めている、国、地方公共団体、独立行政法人、国立大学法人および大学共同利用機関法人、公益法人、学校法人、認定NPO法人などに限定されています。この点については注意が必要でしょう。

遺言による遺贈寄付をすると相続税はどうなる?

前述の「1.遺言による遺贈寄付」の場合、寄付先が法人の場合は相続税の課税関係は発生しないことになります(寄付先が個人の場合はこの限りではありません)。

同じく「2.相続財産による遺贈寄付」の場合、寄付先が重要です。相続税の計算は、相続が発生すると、その人の全ての財産が相続財産として、一定の計算方法により時価で評価されます。この時価を基準に相続税の総額が計算され、あとは財産の取得割合に応じて、税負担も決まっていきます。この時、財産の額が多いほど、相続税の税率も上がっていくことになり、それを累進課税と呼びます。

しかし、相続開始から申告期限である10か月経過までの間に、上述した国税庁が定める団体・法人に該当している先に遺贈寄付を行ない、一定の条件を満たした場合、結果的にその財産については相続税の非課税財産となるのです。

非課税財産になるため、相続税も累進課税であることを鑑みると、遺贈寄付部分は課税財産から外れることになるため、この効果は高い税率が課せられる方ほど、高い節税効果が見込めるでしょう。しかし、大前提として遺贈寄付は節税のための手段ではありません。公共的な慈善を目的とする寄付に対して、ささやかな節税効果があるという程度の認識が正しいと言えるでしょう。

遺贈寄付するにはどうする?

遺贈寄付は下記の手順で進めることになります。

1.遺贈先を選定する

遺贈先を決める場合、ご自身の趣味や故郷・現住所地などゆかりのある先を選ぶ方が多いようです。ただ、ご本人が遺贈先を決めても、一方的に財産を渡すことはできません。遺贈先を決めたら、まず遺贈先に寄付の受け入れを行なっているかどうか、遺贈した財産はどのように使われるのかなどを確認し、遺贈先に確実に寄付が実行されるためには遺言書にどのように記載しておくべきかなどの確認をしておきましょう。

2.遺言執行者を決め、遺言を作成する

主な遺言の方式として、「自筆証書遺言」と「公正証書遺言」があります。前者は比較的気軽に作成することができる上、費用もほぼかかりません。その分、遺贈寄付を執行するための要件を満たせていない遺言になっていても、気づけない可能性があり、遺言そのものが無効になってしまうリスクがあります。

その点、後者の「公正証書遺言」は、自筆証書遺言よりも作成過程が厳格です。手間も費用もかかり、証人も2名必要ですが、後から無効になる可能性が低く、公証役場で原本を保管してくれるので紛失等の心配もありません。遺贈寄付以外の財産分割にも有効に使えるため、確実に財産を渡す観点からは、こちらにメリットがあるといえるでしょう。

別途報酬が発生しますが、公正証書遺言の作成・執行を弁護士や司法書士等の専門家に依頼することも可能です。

遺贈寄付する際の注意点とは?

遺贈寄付の注意点として、遺贈寄付をした先が個人の場合や、国税庁が定める団体・法人に該当していなかった場合(相手先が個人や法人ではない団体など)では、寄付は成立しても相続財産として課税されることになります。あくまで公益的な慈善を目的としている団体や法人が遺贈寄付を受ける場合にだけ、その財産が相続税の非課税財産になると認識しておきましょう。

また、公益を目的としている団体への遺贈寄付ができても、寄付することで特定の人が利益を受けることになったり、税負担を不当に減らす結果となるような寄付であった場合は、国税庁に指摘され、相続税がかかることがあります。「遺贈寄付=相続財産が減る」と短絡的に考えず、公共的な慈善を目的とする先に、適切に遺贈寄付を行なう場合に限り、相続税の非課税財産になると考えておきましょう。

まとめ

遺贈寄付は社会への貢献を目的とするものですが、副次的に相続税の節税につながることもあり、うまく活用するためにも専門家に依頼するなど、事前の入念な準備が必要です。相続において、最終的に相続人がいない場合、国庫に納められることも起こり得ます。こういった遺留金を出すのであれば、特定の団体に遺贈寄付することを検討するのも良いでしょう。

また、承継する相続人がいたとしても、慈善目的で寄付を行なうことで、長くご自身の名前が残るというのも、その方の名誉になります。まだまだ日本では浸透しているといえない遺贈寄付ですが、社会のためにご検討をしてもいいかもしれません。

●取材協力/中川 義敬(なかがわ よしたか)

日本クレアス税理士法人 執行役員 税理士
東証一部上場企業から中小企業・個人に至るまで、税務相談、税務申告対応、組織再編コンサルティング、相続・事業継承コンサルティング、経理アウトソーシング、決算早期化等、幅広い業務経験を有する。個々の状況に合わせた対応により「円滑な事業継承」、「争続にならない相続」のアドバイスをモットーとしており多くのクライアントから高い評価と信頼を得ている。

日本クレアス税理士法人(https://j-creas.com

構成・編集/松田慶子(京都メディアライン ・https://kyotomedialine.com

 

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