相続が発生して遺言書が発見された場合、通常はその遺言書の通りに相続の手続きを進めることになります。遺言書が見つかったとしても、どのようにすればいいのか、不安に思う方もいらっしゃるのではないでしょうか。また、遺言書は見つかったものの、自分には相続財産は不要だと、いわゆる相続放棄をお考えの方にとって、遺言書通りに手続きをすることは不本意かもしません。
そこで今回は、日本クレアス税理士法人(https://j-creas.com)の税理士・中川義敬が、長年にわたる税務申告のサポートを通じて得た知識や経験に基づき、遺言書が見つかった場合の相続の手続や相続放棄の関係についてご紹介したいと思います。
目次
遺言書を見つけたとき、どうしたらいい?
遺言書がある場合、相続放棄はできるのか?
遺言書がある場合の相続の手続きや必要書類は?
遺言書がある場合の相続で注意する点は?
まとめ
遺言書を見つけたとき、どうしたらいい?
遺言書が見つかった場合は、法的に定められた方法によって、その内容を確認しなければいけません。遺言書は自筆証書遺言と公正証書遺言、秘密証書遺言に分かれますが、ここではその中でもメジャーな自筆証書遺言と公正証書遺言が見つかった場合の対応方法についてお話しします。
自筆証書遺言
自筆証書遺言は、遺言者本人だけで作成することができ、その名の通り「自筆」で書き記す遺言書であるため、紙とペン、印鑑さえあれば簡単に作成が可能です。ただし、法的な要件を満たしていないものや、書式に不備があるものは無効となってしまうリスクがあります。
故人の方が生前に自筆証書遺言の存在をお話されていて、ご自宅などで遺言書を発見した場合は、裁判所の検認を受ける必要があります。検認とは、遺言書の内容を家庭裁判所が確認して、その遺言書が偽造や変造されることを防ぐための手続きのことです。
あらかじめ検認の日程を調整した上で、申し立て先の家庭裁判所において遺言書の検認を受けることになります。遺言書を保管している人は、その際、必ず遺言書を持参して家庭裁判所に出向かなくてはなりません。検認は、家庭裁判所が相続人立ち会いのもとで遺言書を開封し、その遺言書の内容や検認を行なった状況を検認調書に記録して行なわれます。
自筆証書遺言の場合には、この検認作業が非常に面倒な手続きになりますが、検認を簡略化するため、令和2年7月に法務局での保管サービスが開始されました。法務局に自筆証書遺言を預けることで、作成後の改ざん等の可能性は一切なくなります。また、家庭裁判所での検認が不要で、手続き面においても簡便となりました。
公正証書遺言
公正証書遺言は、公証役場にて遺言者が口頭で述べたことを公証人が直接聞いて作成するもので、二人以上の証人の立ち会いが必要です。 遺言者の意思を公的な立場で保証してもらえるメリットがあります。
また、公正証書遺言は、下記それぞれの場所に原本等が保管されています。
・公証役場… 原本
・遺言者… 正本と謄本
※正本(法令によって原本と同じ効力が与えられた原本の写し)/謄本(原本全部の写し)
もし、自宅で正本や謄本が見つからない場合には、近隣の公証役場にある遺言検索システムを用いて、遺言があるかどうか検索することが可能です。全国どこかの公証役場に遺言が保管されていれば、近隣の役場で謄本を請求、あるいは郵送してもらって遺言書を入手することができます。
遺言書がある場合、相続放棄はできるのか?
遺言書が発見された場合、原則としてその遺言書に記載されている内容で遺産の分割をすることが必要です。しかし、負債が多いから相続をしたくない、元々親の財産を受け取るつもりがないなど、相続を放棄することを望んでいる方もいらっしゃるでしょう。
そのような方が遺言書を確認した場合には、どのようにすればいいでしょうか。
相続放棄とは?
相続放棄とは、自らの意思で相続権を放棄することで、相続放棄を行なうと初めから相続人とならなかったものとみなされます。相続放棄を行なうには、相続の開始から原則3か月以内に、家庭裁判所に相続放棄の申述という手続きを行ないます。
相続分の放棄
相続放棄と似て非なるものに、「相続分の放棄」というものがあります。
相続分の放棄とは、相続放棄の手続きをとらず、自らの意思で遺産の相続を辞退することです。相続放棄の手続きには間に合わなかったけれど、遺産をもらいたい気持ちがないため、遺産分割協議への参加を辞退するといったケースが該当します。
相続分の放棄は、財産を相続しないという結果を見ると相続放棄と似ているため、事実上の相続放棄と呼ばれることがあります。しかし、相続分の放棄で辞退できるのは、プラスの財産だけで、マイナスの財産を放棄することにはなりません。そのため、被相続人の債権者から借金の返済等を求められた時は、相続人としてその請求に応じる必要があります。
「相続放棄」であれば、初めから相続人ではなかったことになりますが、「相続分の放棄」では、法律上の相続人のままということです。
遺言書がある場合の相続の手続きや必要書類は?
遺言書が見つかった場合の手続きについて、自筆証書遺言と公正証書遺言に分けて説明いたします。
自筆証書遺言
遺言書の検認が必要な場合には、遅滞なく遺言書の検認の申立書を家庭裁判所に提出する必要があります。必要な書類は以下のとおりです。
・遺言書の検認の申立書
・戸籍謄本等の添付書類
・遺言書の写し(遺言書が開封されている場合)
【標準的な添付書類】
標準的な添付書類は、遺言者が亡くなったことや、遺言者の法定相続人が誰になるかを確認するための以下のような書類です。
・遺言者の出生時から死亡時までのすべての戸籍謄本等
・相続人全員の戸籍謄本等
・相続人全員の住民票の写し
・顔写真付きの身分証明書(運転免許書、マイナンバーカード等)
法務局に遺言書が預けられていて、検認が不要な場合は、遺言書保管所にて遺言書情報証明書の交付の請求を行ないます。遺言書原本の代わりとして各種手続に使用することになり、手続きは郵送でも可能です。
公正証書遺言
上述しました遺言検索システムを使って、全国どこかの公証役場に遺言が保管されていることが分かれば、近隣の役場で謄本を請求するか、あるいは郵送してもらって、遺言書を入手することができます。
遺言書がある場合の相続で注意する点は?
遺言書があれば、原則としてその内容の通りに遺産分割を行なえばいいのですが、もし、特定の相続人だけに財産を渡すなど、遺留分が侵害されていた場合には、遺留分侵害額請求の手続きが必要になるので注意が必要です。
遺留分とは、一定の相続人が最低限相続することができる財産の取り分をいい、それが侵害されていた場合には、原則的には遺留分が侵害された事実を知ってから1年以内に手続きが必要になります。
また、上述した通り相続放棄を希望するのであれば、相続の開始から3か月以内に手続きが必要です。そのため、もし多額の負債が残されていた場合には、単なる「相続分の放棄」では、それらを放棄することはできませんので、注意が必要です。
まとめ
相続が発生した場合には、相続開始から10か月以内に相続税の申告書を提出して、相続税を納税する必要があります。そして、その相続に関して遺言書の有無で手続きが異なります。遺言書があることを、生前から知っていれば手続きも容易ですが、そもそも遺言書があるかどうか知らなければ、今回お話した方法で探さなければいけません。また遺言書がない場合には、相続人全員で話し合って遺産分割を決める必要があります。
遺言書があるのかどうか、普段からご家族でコミュニケーションを取り合っておけば、相続手続きもスムーズに進めることができるのではないでしょうか。
●取材協力/中川 義敬(なかがわ よしたか)
日本クレアス税理士法人 執行役員 税理士
東証一部上場企業から中小企業・個人に至るまで、税務相談、税務申告対応、組織再編コンサルティング、相続・事業継承コンサルティング、経理アウトソーシング、決算早期化等、幅広い業務経験を有する。個々の状況に合わせた対応により「円滑な事業継承」、「争続にならない相続」のアドバイスをモットーとしており多くのクライアントから高い評価と信頼を得ている。
日本クレアス税理士法人(https://j-creas.com)
構成・編集/松田慶子(京都メディアライン ・https://kyotomedialine.com)