厚生労働省が行う日本の基幹統計調査が「国民生活基礎調査」だ。最新版(2022年)の結果を見ると、同居家族の介護をしているのが、「配偶者」(22.9%)が最も多く、次に「子」(16.2%)だった。
義夫さん(68歳)は定年退職後、「この3年間、認知症防止のために、スキマ仕事を3つかけもちしている」という。目的は2歳年下の妻に介護をさせないため。また、この8年間、妻とは別居しているが関係は良好とのこと。
義夫さんは、裕福な家の次男として生まれ、中高一貫の私立進学校から名門私立大学に進学。大学のアメフト部で2歳年下の妻と出会い、30歳のときに結婚。一男一女を授かるが、時代はバブル経済期、現役時代は家で夕飯を食べた記憶がないという。
【これまでの経緯は前編で】
60歳で定年した後、絶望的にすることがなかった
60歳で定年退職するときに雇用延長する選択肢もあったけれど、「やり切った」こともあり、延長はしなかった。
「人事部の顔色を伺いながら、誰でもできる仕事を“させていただく”のは、屈辱的だと思ってしまったんです」
35歳で購入した23区内の自宅マンションは寝に帰る空間であり、そこで1日を過ごすことは考えられない。
「妻は仕事でいない。銀行に入った息子は結婚して静岡にいるし、娘は彼氏と同棲中。がらんとしたリビングにいると気が滅入ってきて、図書館に行く。すると私と似たような人がズラっといるわけです。皆、行くところがないから、本があるところに寄りかかっちゃうんでしょうね。本は書いた人の魂が詰まったようなところがあるから、そこに救いを求めてしまう」
話題の本を読んでみようとカウンターに聞くと、「貸し出しは38人待ちです」と言われる。
「そのことに驚いてしまった。そこまで待つなら買ったほうが早いという人が少ないんでしょうね。映画、散歩、観劇、どれもつまらない。営業トークという出口がないまま文化を食べたって消化不良を起こすんです。絶望的にやることがなくて、ギター教室に通いました」
その時は、5年先を見据えて、何らかの技能を向上させたいと思ったという。
「1か月で辞めました。他にも料理や絵画教室、キックボクシングも行きましたが、意味を見出せない。私は仕事以外に興味がなくて苦しくなり、弟に相談したら、“俺の会社を手伝って欲しい”と言われたんです」
弟はIT関連会社を経営している。システムエンジニアを2人雇い、業績は好調だという。弟はシステム納品後のクライアントサポートを兄・義夫さんに依頼する。
「システムは納品した後、テスト運用した後に、請求書を出し入金がされるという契約が結ばれています。テストの期日は、余裕を持ってスケジュールされている。でも、相手の担当はそれをやらない人が圧倒的に多い」
クライアントがテストしないとお金が入らないから、弟の会社にとっては死活問題だ。
「だから、私が相手のところに出張って、試運用をサポートするんです。こっちは、医療機器の試運転に立ち会いまくっていますから、コミュニケーションの呼吸はわかっています」
現場は30〜40代の社員が多かった。彼らにテストしない理由を聞くと、「もし、うまくいかなかったとき、上長にどう説明していいかわからないから先延ばしにした」と言われたという。
「ポカーンとしてしまいましたよ。私なりになぜそうなのかを考えたところ、失敗することを極度に恐れていることがわかったのです」
あとはワークライフバランスの浸透で、残業ができないこともあった。
「メイン業務に追われて、手が回らないという言い訳をする。残業ができないから、先延ばしできるものは、後回しされる。定時になるとパソコンが強制的に切られると聞き、驚きました。それじゃ、私みたいに、仕事が好きな人はどうなるんだと」
【妻から「夫婦をうまくやるために、別居しよう」と言われる……次のページに続きます】