2024年5月18日、自動配車アプリを展開するアメリカの企業・ウーバーは、傘下のフードデリバリーサービス「Ubeer Eats(ウーバーイーツ)」のアジア事業拡大を狙った事業買収を発表した。それは、ドイツ企業・デリバリーヒーロー傘下の料理宅配サービス「Foodpanda(フードパンダ)」の台湾事業を9億5000万ドル(約1500億円)で買収することだ。
日本でも、外出・外食自粛のコロナ禍で急成長したフードデリバリー市場。街にはサービス運営会社のリュックを担いだ自転車やバイクが行き交っている。家にいながら食べ物が届くという便利さは、自由に外出できるようになっても手放せない。
隆史さん(63歳)は日焼けも美しく、筋肉質で明るい容姿をした男性だ。60歳の定年前から現在までの7年間、フードデリバリーサービスの配達をしている。定年後は月30万円を得ることもあるという。「配達の副業を始めるまでまで、体重80キロの白豚だったんですよ」と笑う。
【これまでの経緯は前編で】
配達の仕事で「日本人には使えるお金がある」と思う
56歳で妻と離婚し、ストレスから解放された隆史さんは、気ままな生活を送っていた。しかし、同居する息子から「今のままでは相手の両親に会わせられない」と言われる。頭髪が薄く、太っていたからだ。
「つまり、小汚いおじさんってことです。さらに、医師から運動不足も指摘されていました。体を動かさないと認知症のリスクも高くなるという。そのとき、離婚時に購入したシティバイク(自転車)に乗っていないことに気づきました。役職定年で副業も解禁になり、自転車の活用と運動不足解消を狙い、フードデリバリーサービスの配達員に登録したんです」
登録はスマホで年齢、身分証明書、顔写真の写真を送れば完了したという。
「びっくりするくらい簡単。面接もない。あとは、数千円の配達バッグの申し込みをしたら、2日後にはバッグが自宅に送られてきたんです。早速、土曜日の夕方23区のはずれにある自宅でアプリを“待機”にしていても、あまり依頼が来ない。“なんだ”と思って、ものは試しと都心の会社に出勤した日に“待機”にしたんです。すると、依頼がじゃんじゃん入った」
人がいるところに仕事は発生する。それ以来、隆史さんは会社まで10キロの距離を自転車出勤し、早朝から待機にしてみた。
「すると依頼がある。驚いたのはスムージーの配達が多いこと。朝7時から8時30分の間に、スムージー1個を高そうなマンションに届けるという仕事を6件こなしたことがありました。そのときは1時間半で1500円くらいの収入になり、驚いたのです」
隆史さんは、ネットで稼ぎ方を調べたところ、チップがもらえていないことに気づいた。当時の隆史さんには、清潔感と知性はあるが、少々意地が悪く、無愛想だったという。
「やるからにはチップが欲しい。息子の意見を参考に、魅力的なプロフィールに変えて、なるべく笑顔で明るい声で配達するようにしました。ちょっとした工夫で、チップは増えていく。やがて1時間半で2000円以上稼げるようになる。週に3日、朝に“愛想がいいデリバリーのおじさん”をしていると、人間が変わってくるんですよ。同僚からも明るくなったと思われたらしく、お土産のお菓子がもらえるようになったり、飲み会に誘われるようにもなりました」
地元で“待機”にしていても、チップが少ない仕事ばかり。だから、土日もなるべく会社近辺に行き、待機していたという。
「欲が欲を呼ぶんです(笑)。今、不景気だと言われていますが、都心でデリバリーの配達員をやってみるといいですよ。世の中にはお金がある人がいるとわかって、明るい気持ちになります。だって、店なら1000円で食べられるサンドイッチが1700円になっても注文する人がいて、さらにチップをくれるんですから」
チップがいいのは、外国人だという。デリバリーの副業を続けて2年目に、朝だけで月10万円ほど稼げるようになった。それを機に薄毛の治療薬を飲み始めたという。
「体重も2年で15キロ落ちて、筋肉質になりました。見た目が良くなると稼げるようになるんです。ヘルメットが蒸れて髪がさらに減ってしまったので、薄毛の治療も開始。薬を飲み続けたら3か月目に生えてきて、今ではこの通りふさふさです」
【性格が明るくなり、見た目も良くなると、人生が変わる……次のページに続きます】