「ご自身の遺産を誰に渡すのかを明確にしておきたい」、「亡くなった後に遺産相続において親族間でもめないようにしたい」など、生前に遺言書を作成したいとお考えの方もいらっしゃるでしょう。遺言書の作成方法は、さまざまなものがあります。
その中で公正証書遺言は、最も無効になりにくい遺言書であり、かつ偽造等により、遺言者の意思とは違ったことになるリスクも、極めて低い遺言書といわれています。ただ、公正証書遺言について名前は知っているものの、詳細が分からないという方も、少なくないのではないでしょうか?
そこで今回は、日本クレアス税理士法人(https://j-creas.com)の税理士・中川義敬が、長年にわたる税理士業務を通じて得た知識や経験に基づき、公正証書遺言を用意する際の必要書類や手順等についてご説明いたします。
目次
公正証書遺言とは?
公正証書遺言を作成する際の必要書類は?
遺言の公正証書の作成にかかる費用は?
遺言の公正証書を作成するメリット・デメリットは?
公正証書遺言を作成する手順は?
まとめ
公正証書遺言とは?
公正証書遺言とは、原則公証役場で作成する遺言書のことをいいます。遺言者本人が、公証人と証人2名の立会いのもと、遺言の内容を口頭で告げ、公証人が作成するものです。公証人が文章にまとめたものを、遺言者及び証人2名に読み聞かせて、遺言を遺す人が記載された内容で間違いないかを確認し、最後に署名押印して完成します。
公正証書遺言を作成する際の必要書類は?
公正証書遺言作成に必要となる書類は、作成しようとしている遺言の内容によって異なりますが、主として次の書類が必要です。
必要書類 | 特記事項 |
遺言者の戸籍謄本 | 遺言者と相続人との続柄が分かるもの |
遺言者の印鑑証明書 | 遺言者本人の3か月以内に発行されたもの ※ただし、印鑑登録証明書に代えて、運転免許証、旅券、マイナンバーカード等の官公署発行の顔写真付き身分証明書を遺言者の本人確認資料にすることも可能 |
遺産を渡す相手の住民票 | 遺産を渡す相手が親族ではない場合 |
遺産を渡す法人の全部事項証明書 | 法人に遺産を渡す場合 |
遺言書に記載する不動産の全部事項証明書、固定資産税課税明細書 | 遺産に不動産が含まれる場合 |
遺言書に記載する預貯金の通帳 | 遺産に預貯金が含まれる場合 |
証人の住所、氏名、生年月日の分かる資料(住民票など) | 遺言者自身で証人を手配する場合 |
なお、状況により、ほかにも資料が必要になる場合もあるため、作成する際には公証役場にあらかじめ確認することをお勧めします。
遺言の公正証書の作成にかかる費用は?
公正証書遺言を作成する場合には、公証役場の手数料が発生し、次の表で算定されます。なお、手数料は、財産の相続または遺贈を受ける人ごとに、その財産の価額を算出し、下記の表に当てはめて、その価額に対応する手数料額を求めます。さらに、これらの手数料額を合算して算出します。
財産の価額 | 手数料 |
100万円以下 | 5,000円 |
100万円超~200万円以下 | 7,000円 |
200万円超~500万円以下 | 11,000円 |
500万円超~1,000万円以下 | 17,000円 |
1,000万円超~3,000万円以下 | 23,000円 |
3,000万円超~5,000万円以下 | 29,000円 |
5,000万円超~1億円以下 | 43,000円 |
1億円超~3億円以下 | 43,000円に、超過額5,000万円までごとに13,000円を加算した額 |
3億円超~10億円以下 | 95,000円に、超過額5,000万円までごとに11,000円を加算した額 |
10億円超~ | 249,000円に、超過額5,000万円までごとに8,000円を加算した額 |
この表から算定した金額のほか、 財産総額が1億円以下のときは、別途1万1,000円が加算されます(遺言加算)。
例えば、配偶者に4,000万円、長男に3,000万円、次男に2,000万円を、それぞれ相続させる場合の公証役場手数料は以下のとおりです。
配偶者分:29,000円(3,000万円超~5,000万円以下)
長男分:23,000円(1,000万円を超え3,000万円以下)
次男分:23,000円(1,000万円を超え3,000万円以下)
遺言加算:11,000円
※合計86,000円
なお、上記の手数料のほかに、遺言公正証書の原本枚数が3枚を超える場合は、超える1枚ごとに250円の手数料がかかります。そのほか、公証人に遺言者のお住まい等に出張して遺言書を作成する場合は、手数料が加算されたり、公証人の日当、現地までの交通費等が必要です。
具体的に手数料の算定をする際には、上記以外の点が問題となる場合もあるため、最寄りの公証役場にお尋ねすることをお勧めします。
遺言の公正証書を作成するメリット・デメリットは?
公正証書遺言を作成する上での、メリットとデメリットについてご紹介します。
メリット
1.無効になるおそれがない
遺言書を作成する公証人は、法曹資格者や法曹資格者に準ずる学識経験を有する者が、法律的に整理した内容の遺言書を作成します。そのため、作成方法を誤り遺言が無効に、という事態になる可能性は、非常に低いといえるでしょう。
2.自筆が難しい方でも作成できる
公証人が遺言書を作成するため、病気等で自筆が困難となった方でも、遺言書を作成することができます。
3.公証人が出張で作成することができる
公正証書遺言は、役場以外でも作成することが認められているため、遺言者が病気等により、公証役場に出向くことができない場合は、公証人が遺言者の住まい等に出張して、遺言書を作成することができます。
4.遺言書を紛失、偽造されるおそれがない
遺言公正証書の原本は、必ず公証役場において保管されます。そのため、紛失や遺言書が破棄されたり、隠匿や改ざんをされたりするおそれがありません。
デメリット
1.費用面では他の遺言書作成方法に比べて高い
前述したように財産金額に応じて、費用が掛かる上に別途状況に応じて、費用が加算されます。一方で、法務局の保管制度の手数料は3,900円ほどなので、公正証書遺言は、ほかの遺言書作成方法に比べて割高です。
2.証人を2名選任する必要がある
公正証書遺言は、証人2名の立会いのもと作成されるものなので、証人を2名選任する必要があります。
公正証書遺言を作成する手順は?
公正証書遺言の作成は、概ね次のような手順で行なわれます。
(1)公証人への遺言の相談や遺言書作成の依頼
弁護士等を通じて、公証人に相談や作成の依頼をします。しかし、直接、遺言者やその親族等が公証役場に電話やメールをしたり、予約を取って公証役場を訪れたりして、公証人に直接、遺言の相談や遺言書作成を依頼することも可能です。
(2)必要書類の提出
どのような財産を有していて、それを誰にどのような割合で相続させ、または遺贈したいと考えているのかなどを記載したものや、公正証書遺言を作成する際の必要書類を公証人に提出します。
(3)公証人との事前協議
公証役場での手続きに先立って、公証人と事前協議を行ないます。
(4)公正証書遺言作成の日時の確定および証人の選定
遺言者が公正証書遺言をする日時を確定し、証人を選定します。
(5)公正証書遺言作成当日
遺言者から公証人に対し、証人2名の前で遺言の内容を改めて口頭で告げていきます。遺言の内容に間違いがない場合には、遺言者および証人2名が、遺言公正証書の原本に署名押印をして、公証人も遺言公正証書の原本に署名して職印を押捺します。
まとめ
公正証書遺言は、紛失や偽造、無効になる恐れがきわめて低く、自筆や外出が難しい方にとっても有用です。ほかの遺言書の作成方法より、多くのメリットがありますが、遺言書作成における手数料は、ほかの遺言書作成方法よりも高いなどのデメリットもあります。
また、証人を2名選出する必要があり、かつ遺言書を作成する際に、複数の書類を準備する必要があります。そのため、事前に公証役場に確認し、状況によっては弁護士や税理士、司法書士などの専門家に相談して、円滑に進めていただくのがお勧めです。
●取材協力/中川 義敬(なかがわ よしたか)
日本クレアス税理士法人 執行役員 税理士
東証一部上場企業から中小企業・個人に至るまで、税務相談、税務申告対応、組織再編コンサルティング、相続・事業継承コンサルティング、経理アウトソーシング、決算早期化等、幅広い業務経験を有する。個々の状況に合わせた対応により「円滑な事業継承」、「争続にならない相続」のアドバイスをモットーとしており多くのクライアントから高い評価と信頼を得ている。
日本クレアス税理士法人(https://j-creas.com)
構成・編集/松田慶子(京都メディアライン ・https://kyotomedialine.com)