贈与税と相続税は、相続税法という同じ法律によって徴収される税金で、贈与税は相続税を補完する役割を担う税金といわれています。いずれも個人から個人に移転された財産にかかる税金で、税率も10%から最大55%です。しかしながら、相続税の基礎控除額は、3,000万円 + 法定相続人の数 × 600万円と、贈与税よりもかなり大きく、税率についても贈与税の特例税率より、さらに税額が少なく計算されるように設定されています。
そこで今回は、日本クレアス税理士法人(https://j-creas.com)の税理士 中川義敬が、長年にわたる税理士業務を通じて得た知識や経験に基づき、相続税と贈与税の違いについてご説明いたします。
目次
贈与税とは?
相続税とは?
贈与税と相続税の違いとは?
実例で贈与税と相続税を比較してみよう
まとめ
贈与税とは?
贈与税は、生きている個人から財産をもらったときに、もらった人にかかる税金です。
贈与税の課税方法は、次の2つから選択することができます。
(1)暦年課税
暦年課税は、1人の人が1月1日から12月31日までの1年間に、もらった財産の合計額から、贈与税の基礎控除額の110万円を控除した金額に贈与税がかかるというものです。贈与税は、もらった財産の合計額が基礎控除額の110万円以下であればかからず、贈与税の申告をする必要もありません。相続税の対策で生前贈与を年間110万円の範囲内で行うという方法がとられることがあります。
(2)相続時精算課税
相続時精算課税は、一定の要件のもとに選択できる方法です。贈与のときに、軽減された贈与税を支払います。その後の相続の際に、その贈与財産とそのほかの相続財産をあわせた金額をもとに相続税を計算し、支払い済みの贈与税を精算する方法です。相続時精算課税は、利用できる人が限定されていて、60歳以上の人が、その人の18歳以上の子供や孫へ財産を渡すときだけに使うことができます。
相続時精算課税には、2,500万円の特別控除があります。この2,500万円の特別控除は、贈与を受ける人が一生のうちで特別控除ができる金額です。以前に特別控除を受けた場合には、2,500万円から以前に受けた特別控除の金額を控除した残りが、特別控除の金額になります
相続税とは?
相続税とは、被相続人が亡くなった時点で保有していた財産を相続人が相続した際に、取得した財産に応じて課される税金です。所得税などと同じ累進課税方式が採用されており、相続する財産が大きくなるほど、納める税額も大きくなります。そのため相続税には、富を再分配する機能や家庭による経済格差を縮小させる役割があります。
ただ、財産を相続したからといって相続税が必ずかかるわけではありません。では相続税は、具体的に相続財産がいくらから発生するのでしょうか。相続税は相続したプラスの財産からマイナスの財産を差し引いた財産(正味の財産)が、基礎控除額を上回る場合に発生します。
贈与税と相続税の違いとは?
贈与税は、生きている個人から財産をもらったとき、つまり、贈与する側とされる側のお互いの合意のもと発生し、もらった人にかかる税金です。一方、亡くなった個人から財産をもらった場合は相続税となります。
非課税の範囲と税率については下記の通りです。
非課税の範囲と税率
暦年贈与の場合、基礎控除枠として年間(1月1日~12月31日)で110万円までは非課税となります。
<特例贈与財産用の贈与税率(特例税率)>
基礎控除後の課税価格 | 税率 | 控除額 |
200万円以下 | 10% | – |
400万円以下 | 15% | 10万円 |
600万円以下 | 20% | 30万円 |
1,000万円以下 | 30% | 90万円 |
1,500万円以下 | 40% | 190万円 |
3,000万円以下 | 45% | 265万円 |
4,500万円以下 | 50% | 415万円 |
4,500万円超え | 55% | 640万円 |
※本表の税率等は、直系尊属から18歳以上の子・孫等に贈与する「特例贈与財産」に適用されるものです。
相続時精算課税の場合、この制度は一定条件のもと、60歳以上の父母又は祖父母から、推定相続人となる18歳以上の子、又は孫に対してされた贈与につき、2,500万円までは贈与税が非課税となります。また、2024年(令和6年)1月1日以降に贈与により取得する財産にかかる贈与税については、さらに110万円の基礎控除額が追加されます。相続時精算課税に適用される税率は一律20%です。
最後に、相続税の基礎控除としては3,000万円 + 600万円 × 法定相続人の数が、非課税の金額となります。
<相続税の税率>
法定相続分に応ずる取得金額 | 税率 | 控除額 |
1,000万円以下 | 10% | なし |
3,000万円以下 | 15% | 50万円 |
5,000万円以下 | 20% | 200万円 |
1億円以下 | 30% | 700万円 |
2億円以下 | 40% | 1,700万円 |
3億円以下 | 45% | 2,700万円 |
6億円以下 | 50% | 4,200万円 |
6億円超 | 55% | 7,200万円 |
以上より、相続税の非課税の範囲は相続人の数、血縁関係に左右される側面があるのに対し、贈与税は一定の金額が設定されています。また、相続税は贈与税よりも税率が低く抑えられていることが分かります。
実例で贈与税と相続税を比較してみよう
実例で贈与税と相続税の比較を見ていきましょう。
【例】贈与税:父(直系尊属)より特例贈与財産4,000万円の贈与を受けた場合
<一括で4,000万円の贈与を受けた場合>
基礎控除後の課税価格:4,000万円 - 110万円 = 3,890万円
3,890万円 × 50% - 415万円 = 1,530万円(特例税率)
<毎年500万円を8年間、贈与を受けた場合>
基礎控除後の課税価格:390万円(500万円 - 110万円)
390万円 × 15% - 10万円 = 48万5,000円(特例税率)
48万5,000円 × 8年間 = 388万円(8年間トータルの税額)
【例】相続税:被相続人の長男(22歳)が次のように被相続人の財産を相続した場合
<長男が相続した財産>
現金:4,000万円
<基礎控除額と課税遺産総額>
法定相続人は長男が1人だけなので、基礎控除額は、3,600万円(3,000万円 + 600万円× 1人)になります。したがって課税遺産総額は、400万円(4,000万円 - 3,600万円)です。
<相続税額>
法定相続分ごとに相続税の計算を行います。相続税率は前掲のようになります。
長男の相続税額:400万円 × 10% = 40万円
財産の金額が同一の条件であれば、税率が低い分、相続税のほうが安くなることが分かります。相続税には小規模宅地の特例や、配偶者の税額軽減措置など各種優遇規定もあるため、税額はさらに安くなることが多いでしょう。
ただし、相続財産が過大にある場合には、相続税率が非常に高くなってしまいます。そのため、税率の低い金額で少しずつ生前贈与を実施して、相続対策をすることが重要です。
まとめ
相続税が課税されるのは、被相続人が亡くなったタイミングとなります。そのため、その時点での財産を減らすことができれば必然的に相続税も減らすことが可能です。つまり、上手に生前に贈与を行うことで、相続税を減少させることができるため、相続の生前対策を検討する場合、相続税と関連のある贈与税を組み合わせて考えることは避けて通れません。
贈与税と相続税を別々に考えるのではなく、将来発生する相続を見据えてトータルの納税額を想定し対策をしていただきたいと思います。
●取材協力/中川 義敬(なかがわ よしたか)
日本クレアス税理士法人 執行役員 税理士
東証一部上場企業から中小企業・個人に至るまで、税務相談、税務申告対応、組織再編コンサルティング、相続・事業継承コンサルティング、経理アウトソーシング、決算早期化等、幅広い業務経験を有する。個々の状況に合わせた対応により「円滑な事業継承」、「争続にならない相続」のアドバイスをモットーとしており多くのクライアントから高い評価と信頼を得ている。
日本クレアス税理士法人(https://j-creas.com)
構成・編集/松田慶子(京都メディアライン ・https://kyotomedialine.com)