相続財産とは、預貯金や不動産、株式、車など、亡くなられた方が保有していた全ての資産が対象です。その中でも、亡くなった方の自宅や遠方にある価値の低い不動産などは、相続をしても手に余るため、相続後にご売却を検討するケースも数多く見られます。
そこで今回は、日本クレアス税理士法人(https://j-creas.com)の税理士 中川義敬が、長年にわたる税理士業務を通じて得た知識や経験に基づき、相続した不動産を売却した場合に課税される税金や、節税方法についてご紹介いたします。
目次
相続した不動産を売却する手順とは?
相続した不動産を売却したら課税される税金とは?
納める税金を抑える方法はある?
相続した不動産を売却した場合の税金をシミュレーション
まとめ
相続した不動産を売却する手順とは?
相続した不動産を売却するためには、以下の手順を踏む必要があります。
・遺産分割協議や遺言書による財産の確定
・名義変更手続き(相続登記)
・売買契約書の締結
・確定申告書の提出/納税手続き
遺産分割協議や遺言書による財産の確定
不動産を売却するにあたって、まずは誰がその不動産を相続するのかを、確定させることが必要です。相続人同士の話し合いにより遺産分割協議書を作成することで、正式に相続財産の分割が確定します。もしくは被相続人が遺言書で、あらかじめ決めていた場合には同じ効果があります。
名義変更手続き(相続登記)
不動産を相続した場合には、法務局で名義変更手続き(相続登記)が必要になります。所有者の死亡が周知の事実であったとしても、登記簿に名義人として記載されない限り、不動産の売却手続きを進めることができません。そのため、必ず登記手続きを済ませておきましょう。
売買契約書の締結
名義変更手続きが完了したら、一般的には不動産会社などに仲介を依頼して、売買契約書を締結し、取引金額や条件を確定させます。
確定申告書の提出/納税手続き
不動産を売却することで利益が発生した場合には、確定申告書の提出が必要です。確定申告は売買した年の翌年3月15日までに、確定申告書を提出した上で、納税をする必要があります。
相続した不動産を売却したら課税される税金とは?
不動産を売却することによって得た利益は「譲渡所得」と言い、個人の所得税や住民税の課税対象です。また、不動産の譲渡所得にかかる税率は、売却した年の1月1日における不動産の保有期間によって変わります。
・譲渡した年の1月1日時点の所有期間が5年以内… 所得税30%(※) 住民税9%
・譲渡した年の1月1日時点の所有期間が5年超え… 所得税15%(※) 住民税5%
(※)所得税は2037年まで復興特別所得税(所得税の2.1%)が上乗せされます(30% → 30.63%、15% → 15.315%)。
また、不動産の売却に伴い売買契約書に収入印紙を貼ることで、印紙税も課税されています。定められた金額の収入印紙を貼り、その上に割り印することで納税したとみなされます。売却した不動産に関するローンが残っている場合には、その抵当権を抹消する登記が必要です。登記には司法書士への報酬のほか、登録免許税が必要となります。
納める税金を抑える方法はある?
不動産を売却することで、上述した通り様々な税金が課税されますが、以下のような税額を軽減させる方法があります。
・売買契約書の確認
・取得費加算の特例
・空き家特例
売買契約書の確認
土地・建物を売却した場合、下記の計算式で譲渡所得を計算します。
譲渡所得 = 譲渡価格 -(取得費 + 譲渡費用)
取得費とは土地・建物購入の際にかかった費用のことで、土地の購入代金とも言えます。購入時の売買契約書がない場合には、取得費は譲渡価格の5%で計算することになり、契約書の有無で税額が大きく異なるのです。
購入した金額がわからなければ、この概算取得費を計上することになるため、売買契約書が残っているかどうか、必ず確認をしていただきたいと思います。
取得費加算の特例
相続などにより取得した土地、建物、株式などの財産を、一定期間内に譲渡した場合、相続税額のうち一定金額を譲渡資産の取得費に加算することができます。
売却前に相続税の負担があったことを考慮し、本特例を適用することで取得費を増額することができて、節税に繋がるでしょう。しかし、この適用を受けるためには、一定の書類を添付して確定申告をすることが必要です。
【要件】
1、相続や遺贈により財産を取得した者であること。
2、その財産を取得した人に相続税が課税されていること。
3、その財産を、相続開始のあった日の翌日から相続税の申告期限の翌日以後、3年を経過する日までに譲渡していること。
【取得費に加算する金額】
取得費に加算する金額 = A × B/C
A:相続税額
B:譲渡した財産の相続税評価額
C:取得財産の価額(※)
(※)相続時精算課税適用財産の価額 -債務及び葬式費用 + 暦年課税分の贈与財産価額
空き家特例
相続などにより取得した、被相続人の居住用家屋や敷地を、平成28年4月1日から令和5年12月31日までの間に売却し、一定の要件に当てはまるときは、譲渡所得の金額から最高3,000万円まで控除することが可能です。これを、被相続人の居住用財産(空き家)に係る譲渡所得の特別控除の特例といいます。
空き家特例と取得費加算は併用して利用できないので、注意が必要です。
相続した不動産を売却した場合の税金をシミュレーション
相続した不動産を売却した場合に、上記の特例のうち、取得費加算の特例を活用した場合の税金計算をシミュレーションしていきたいと思います。
【被相続人】
・母親
【相続人】
・長男、次男の2名
【相続財産の総額】
・預貯金:4,000万円
・土地:6,000万円
・投資信託:5,000万円
・合計:1億5,000万円
※土地は20年前に5,000万円で購入
【遺産分割方法】
・預貯金:長男
・土地:次男
・投資信託:長男と次男で1/2ずつ
・相続後、次男が土地を8,000万円で譲渡する意向
【相続税】
・課税遺産額:1億5,000万円 - 4,200万円(※)= 1億800万円
(※)基礎控除額:3,000万円 + 600万円 × 2 = 4,200万円
・相続税総額:1億800万円 × 1/2 = 5,400万円
5,400万円 × 30% - 700万円 = 920万円
920万円 × 2 = 1,840万円
・相続人ごとの負担額
長男:1,840万円 ×(4,000万 + 5,000万円 ÷ 2)/ 1億5,000万円 = 7,973,300円
次男:1,840万円 ×(6,000万 +5,000万円 ÷ 2)/ 1億5,000万円 = 10,426,600円
【取得加算額】
10,426,600円 × 6,000万円 /(6,000万円 + 5,000万円 ÷ 2)⇒ 6,000 / 8,500になります。
【譲渡所得税】
・取得費加算考慮前
譲渡所得:8,000万円 - 5,000万円 = 3,000万円(1)
譲渡所得税:(1)× 15.315% = 4,594,500円
住民税:(1)× 5% = 1,500,000円
合計:4,594,500円 + 1,500,000円 = 6,094,500円
・取得費加算考慮後
譲渡所得:8,000万円 -(5,000万円 + 7,359,952円)= 22,640,048円 ⇒ 22,640,000円(1)
譲渡所得税:(1)× 15.315%=3,467,316円 ⇒ 3,467,300円
住民税:(1)×5%=1,132,000円
合計:4,599,300円
取得費加算を適用したことで、節税ができていることがわかるかと思います。
まとめ
相続によって財産をもらう機会は、一生のうちそう何度も経験することではありませんが、不動産を売却することも、同じく何度も発生することではないかもしれません。しかし、空き家になる可能性のある物件や、遠方の不動産などは、固定資産税などの維持費がかかって、相続しても維持管理が難しいケースもあるでしょう。
不動産の売却には確定申告の手続きや、税金の納税が伴います。そのため、正しい知識や経験をもとに節税可能な不動産かどうかを、税理士などの専門家に確認して進めていただくことをお勧めします。
●取材協力/中川 義敬(なかがわ よしたか)
日本クレアス税理士法人 執行役員 税理士
東証一部上場企業から中小企業・個人に至るまで、税務相談、税務申告対応、組織再編コンサルティング、相続・事業継承コンサルティング、経理アウトソーシング、決算早期化等、幅広い業務経験を有する。個々の状況に合わせた対応により「円滑な事業継承」、「争続にならない相続」のアドバイスをモットーとしており多くのクライアントから高い評価と信頼を得ている。
日本クレアス税理士法人(https://j-creas.com)
構成・編集/松田慶子(京都メディアライン ・https://kyotomedialine.com)