少子高齢化による人口減が進んでおり、地域の文化や産業の担い手不足が懸念されている。そこで、多くの自治体はその地域に住む「定住人口」のみならず、地域づくりに関わる人も含める「関係人口」増やすための取り組みを進めている。総務省が運営する「関係人口ポータルサイト」を見ると、全国各地で農地の貸し出し、空き家の活用、ワークショップなどのイベントが行われていることがわかる。
「とはいえ、定住者がその地域に関わらなければ、関係人口を増やすことはできないと思う」と言うのは周平さん(65歳)だ。彼は5年前に都心から、生まれ育った東京郊外の実家に戻った。きっかけは、定年退職だった。
新入社員は車掌業務、寝坊の悪夢は今でも続く
周平さんは、60歳で定年するまで、大手鉄道会社に勤務していた。国立大学の工学部を卒業し、新卒で入社したという。
「会社に入れたのは、完全なコネ入社です。父が系列の不動産会社でかなりの実績を残して役員になっていたので、息子の僕が入社できたんです。そうでもなければ入れませんでした」
周平さんは総合職で入社したが、最初の1年は、鉄道輸送の現場に立ったという。
「半年ほど車掌業務をし、次の半年に駅員として駅業務に従事するのです。研修のような業務を経験してからそれぞれの専門分野に散っていくとはわかっていましたが、いずれの業務も辛かったですね。それは私が早起きが苦手だから」
今でもうなされて飛び起きるのは、寝坊する夢だという。最も辛かったのは「出勤しなければ列車が動かない」という重責が伴う車掌業務だったと振り返る。
「車掌は、ドアの開閉、発車や到着時のホームの安全確認、乗り換えの案内、乗客からの問い合わせの対応などを行います。やることは多いのに、ミスは許されない」
新入社員は、集団で研修を受けて現場に立つ。最初の1週間は先輩がついてくれたが、一人になったときが怖かったという。
「新卒のペーペーだから、朝3時半に起きて、4時に出勤でしょ。徹夜のまま行ったら、居眠りや体調悪化の可能性がある。だから、21時に頑張って寝ようとするんですよ。するとプレッシャーから眠れなくなる。浅い眠りをダラダラ続けた後に起床し、制服を着て、白い手袋をはめて列車に乗る。ミスをしないか、駆け込み乗車がないか、事故や急病人がいないか、お客さんに怒られないか、列車が遅れないかそんなことばかり考え、無事に運行できるように祈っていました。一刻も早く、車掌業務から離れたかった」
周平さんはそう振り返り、「今でも車掌さんの姿を見ると、心の中で敬礼しています」と続けた。当然、駆け込み乗車はしたことがないという。
そして、車掌業務から半年後、駅員としての勤務が始まる。車掌時代に比べて、寝坊の恐怖は軽減されたが、精神的にそれ以上の困難が待ち受けていたという。
【都内の女子校が多い駅に配属される……次のページに続きます】