写真はイメージです

NHK『日曜討論』ほか数々のメディアに出演し、シニア世代の生き方について持論を展開するライフ&キャリア研究家の楠木新さん。人生100年時代を楽しみ尽くすためには、「定年後」だけでなく、「75歳からの生き方」も想定しておく必要があると説きます。楠木さんが10年、500人以上の高齢者に取材を重ねて見えてきた、豊かな晩年のあり方について紹介します。

新たな居場所を発見する3つの方法

新型コロナウイルスの感染が一時的に下火になった2020年9月に参加した同窓会でのことです。当然ながら私と同世代の65歳を過ぎたメンバーが集まりました。

何より印象的だったのは、誰もが一旦退職していたことです。過去の同窓会では、どういう会社に勤めているのか、どんな仕事をしているかの社会的な立場や、収入額などが話題の中心でした。ところが現役当時の仕事から離れると、自分のことを人に説明するのが簡単ではなくなります。少し大げさにいうと「自分はいったい何者か?」を考える入り口に立ったのかもしれません。学生時代に悩んだことと同じ問いに戻ったという友人もいました。

私は、誰もが現役当時の仕事に代わる、新たな自分の「居場所」を持つ必要があるのではないかと考えました。「これをやっている時(ここにいること)が、一番私が私らしい」と感じられるような居場所。組織に属することが少なくなる70代以降は、特にその有無が大切になるのではないでしょうか。ここでいう居場所は単に空間的な位置を示すだけではなく、時間的な流れや自らの思い入れも含みます。自分が過ごしていて、納得できる場所であるべきです。

定年後に自身の居場所を失う人は少なくありませんが、新たな居場所を見つけるためには3つのポイントがあることを長年の取材経験から見出しました。

1つ目は、子どもの頃の自分を呼び戻すことです。子どもの頃に夢中になったこと、若い頃にやり残したことに居場所探しのヒントがある人は少なくありません。過去はもう終わったことではなく、現在や未来と一体となって自分を支える居場所になる可能性があります。

2つ目は、「教える―学ぶ」の関係のなかから、居場所を見つけることです。サラリーマン時代は、自身の能力やスキルをアップする、組織内での成績を上げるといった競争モードのなかで仕事に励んできた人が多いでしょう。ところが定年後になると、むしろ他の人に役立つように何かを教える、または新たなことを学ぶといったことの比重が高まります。もちろんこれは単に学校で「教える―学ぶ」といった狭い範囲のことではありません。このような人に寄り添う「教える―学ぶ」の関係は双方に価値を生み出します。

3つ目は、「ノスタルジー」とでもいいましょうか。お金や健康、仕事も大事ですが、人はそれだけでは生きていけません。過去の自身の思い出や、祖父母や両親に対する思慕、生まれ育った故郷や幼馴染が自分を支えている人もいます。

ただし、お金が儲かるからとか、社会的地位や他人の評価などの客観的な側面だけで居場所を選んでしまうと、失敗することが多いようです。他人のことは気にせず、自分がどう感じるかという主体的な姿勢を優先すべきでしょう。

若い頃に戻れば「いい顔」になれる。次ページに続きます

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