マネジメント課題解決のためのメディアプラットホーム「識学総研(https://souken.shikigaku.jp)」が、ビジネスの最前線の課題を解説するシリーズ。今回は、50代・60代のビジネスパーソンに向けて幸せの観点からこれからのキャリアについて考察します。

失われた幸せのロールモデル

人生100年時代、上の世代の先輩たちのように「60歳で定年を迎えた後は、年金暮らしで悠々自適」というロールモデルは望むと望まないにかかわらず、実現できる人は少なさそうです。それが幸福なのだと誰もが認めるロールモデルはなくなった一方、多様な価値観を受容する社会へ変化しています。50代・60代に差し掛かったビジネスパーソンにとって、幸せについて見つめ直すことは、今後のキャリアを考える上でも大切なことではないでしょうか。

「幸せ」というと宗教っぽかったり、自己啓発っぽくなったりして敬遠されるビジネスパーソンの方も多いと思います。しかし、ノーベル経済学賞を2002年に受賞した心理学者・行動経済学者のダニエル・カーネマン教授が著名なように、昨今では幸せについての学術的研究が盛んに行われています。日本では慶應義塾大学の前野隆司教授が「幸福学」の第一人者として、ウェルビーイング学会会長も務められ、その研究成果を啓蒙されています。

幸せとは何か?

様々な研究者が様々な尺度を用いて幸福を測定しようと試みています。中でも有名なものがアメリカの調査会社ギャラップが個人の意識調査に用いるウェルビーイングの5つの要素です。

(1)Career Well-being
「自分でこのキャリアを選んでいる」という自己選択と納得感があるか

(2)Social Well-being 
家族、友人、同僚など生活の中で他者との深い関わり合いを持つことができているか

(3)Financial Well-being
支出や収入を管理し、経済的に満足できているか

(4)Physical Well-being
身体的、精神的に健康な状態であるか

(5)Community Well-being
地域社会と関わり合いを持ち、住んでいる地域に根差していると感じられているか

さらに先述の前野教授がパーソル総合研究所と共同開発した「はたらく人の幸せ/不幸せ診断」では、はたらく人の幸せの7因子を次のように定義しています

(1)自己成長因子
仕事を通じて、未知な事象に対峙して新たな学びを得たり能力の高まりを期待したりすることができている状態

(2)リフレッシュ因子
仕事を一時的に離れて精神的・肉体的に英気を養うことができていたり、私生活が安定している状態

(3)チームワーク因子
仕事の目的を共有し、相互に励まし・助け合える仲間とのつながりを感じることができている状態

(4)役割認識因子
自分の仕事にポジティブな意味を見出しており、自分なりの役割を能動的に担えている実感が得られている状態

(5)他者承認因子
自分や自分の仕事は、周りから関心を持たれ、好ましい評価を受けていると思えている状態

(6)他者貢献因子
仕事を通じて関わる他者や社会にとって、良い影響を与え、役に立てていると思えている状態

(7)自己裁量因子
仕事で自分の考えや意見を述べることができ、自分の意志やペースで計画・遂行することができている状態

※「はたらく人の幸せ/不幸診断」(パーソル総合研究所)

読者の中には意外に感じられる方もいらっしゃるかもしれませんが、これらは識学が理想とする組織状態にも近似しています。以上を踏まえ、シニア社員の今後のキャリアについて考えてみましょう

今の職場で貢献し続ける

ご存じの通り、2021年4月に施行された改正「高年齢者雇用安定法」により、70歳までを対象として、「定年制の廃止」「定年の引き上げ」「継続雇用制度の導入」「業務委託契約の導入」「社会貢献事業に従事できる制度の導入」のいずれかの措置を講じるように努めることを事業主は義務付けられました。背景には人生100年時代の到来、少子高齢化・人口減による人手不足があります。これからのシニア社員は望めば70歳まで今の職場の会社員として貢献し続ける環境も用意されつつあります。現に総務省の労働力調査によると、就業者に占める60代以上の比率は2022年に21.6%となり、データのある1968年以来で最高を更新しています。また、一部の企業の中にはシニア社員の処遇改善に取り組んでいます。

2023年7月16日の日本経済新聞には以下のような記事が載りました(一部抜粋)。

人手不足が深刻になる中、シニア人材の処遇を現役並みに改善する動きが出てきた。住友化学は2024年から60歳以上の社員の給与を倍増。村田製作所も24年4月以降、59歳以前の賃金体系を維持しながら定年を65歳に引き上げる。「人生100年時代」を迎え、労働市場で比重が高まる60代以上が意欲を持って働くシニア雇用の環境づくりが欠かせない。

2023年7月16日 日本経済新聞より

一方で、役職定年や定年再雇用により、これまで自身が担ってきた役割が変わったことに適応するのが難しかったり、会社側がシニア社員の新たな役割を適切に設定できていなかったりする事象が発生していることも事実です。

はたらく人の幸せの7因子のうち、(1)(3)(5)(6)(7)いずれも実現するには自身の役割を正しく認識し、受け入れることから始まります。

もし、シニア社員の役割が曖昧であれば、明確にするか他のキャリアの選択肢も視野に入れてもよいかもしれません。

転職も選択肢として外部に貢献できる職場を求める

転職サービス大手、株式会社ビズリーチにて2023年5月15日に掲載された転職コラム「50代・60代の経験は見方一つで転職に役立つ 転職市場NOW シニア編 佐藤文男インタビュー」(https://www.bizreach.jp/column/market-now-22/)によれば、シニア社員でも引く手あまたな専門職のニーズがあること、若手経営者がシニア社員のマネジメント能力を求めるニーズが増えているとあります。

「転職=悪」という固定観念が根強い方もいらっしゃるかもしれませんが、長年培ったビジネスパーソンとしての経験・スキルを求める別の職場に行くことで、先述の幸せの要素を満たせるのであれば、転職も考慮に入れてもよいかもしれません。

経営者になり生涯現役も可能な環境を作る

お読みになられた方も多いかもしれませんが、2018年に発行された『サラリーマンは300万円で小さな会社を買いなさい 人生100年時代の個人M&A入門』(三戸政和 著/講談社)は大きな話題を呼びました。

詳細は本著に譲りますが、日本の中小企業とその技術の承継に長年培ったビジネスパーソンとしての経験・スキルを役立てるというのも大きな意義のあることではないでしょうか。

まとめ

自分の幸せについて改めて考えてみることで、シニア以降のキャリアを考え直すきっかけになれば幸いです。

シニア社員と呼ばれる年代になってくると、経済的豊かさや社会的地位だけが幸福の要素でないことは実感覚として感じていらっしゃる方がほとんどではないでしょうか。

人は存在意義を感じずには幸せに生きていけません。存在意義は職場のみで発生するものではありませんし、職場を去れば職場から得ていた存在意義を感じることはできなくなってしまいます。そのため、シニア社員としてのキャリアを終えた後も存在意義を感じることのできる家族・友人・趣味・地域といったコミュニティの充実を図ることもまた大切です。そして、その職場以外のコミュニティの充実を図るためにも、糧を得る(=お金を稼ぐ)ためのコミュニティとしての職場、キャリアの充実が重要なのです。

識学総研:https://souken.shikigaku.jp
株式会社識学:https://corp.shikigaku.jp/

 

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