コアジサシは東南アジアや南半球から繁殖のため日本にやってくるカモメ科の夏鳥です。全長は約28cmで、ヒヨドリと同じくらいの大きさ。東京ではソメイヨシノが散り、ヤエザクラが見ごろを迎える時期、多摩川の堰などに行くと、「キリッ、キリッ」と鳴きながらヒラヒラと舞う姿を見ることができます。

営巣地の上空を悠然と舞うコアジサシ。

よく観察してみると、特に2羽で争うように飛ぶ時にはグーンと加速し、急旋回しています。また、時々水面に急降下して飛び込む様子も見られます。コアジサシの英名はLittle Tern。この特徴的な飛翔に因む命名です。同名の大人向けの絵本『リトルターン』(ブルック・ニューマン作、五木寛之訳)の主人公としてご存じの方もいらっしゃると思います。

砂浜に舞い降りたコアジサシとアジサシの混群。アジサシの方がひとまわり大きい。

写真をご覧いただくと分かると思いますが、コアジサシの身体は長く先が尖った翼、先が二つに分かれた燕尾形の尾、そしてキリッと引き締まった顔、そのどれもがスマートそのもの。リズミカルな羽ばたきで風に乗り、小気味よく急旋回を繰り返しながら飛ぶ様は、いつまでも観ていたくなるほど清々しい姿です。まるで紙飛行機が自ら旋回しているようにすら見えます。この小さな身体で、コアジサシは南半球のオーストラリアなどから何千キロもの旅を経て主要な繁殖地の日本などに群れで渡ってくるのです。

川面すれすれの高さを群れで飛ぶコアジサシ。
尾羽を広げてブレーキをかけ、水面を注視する様子。

採餌する様子を観察してみましょう。コアジサシは水面に急降下して飛び込み、魚を捕らえます。名前にあるアジサシ(鯵刺)とは、鯵を嘴(くちばし)で刺して捕らえる意味ではなく、餌としての魚全般を指しています。鯵だけを捕食しているわけではありません。鮎刺とか鮎鷹の異名もあります。「刺」は身体ごと水面に対してほぼ垂直に飛び込む様子を言い表したようです。高い場所からまっすぐ飛び込むこともあれば、カワセミのように空中でいったんホバリング(滞空飛行)をし、狙いを定めてから飛び込むこともあります。

河原の岸辺近くで何度も飛び込み、小さな魚を捕らえた。

愛らしい求愛給餌と子育て

この時期は繁殖期ということもあり、オスが捕らえた魚をメスにプレゼントする「求愛給餌」という行動を観ることができます。メスが餌の魚を受け取るとプロポーズ成功、となりますが、中には魚を受け取ることなくそっぽを向いてしまうメスもいます。カップルが成立しても求愛給餌を続ける場合もあります。ちなみにこのような行動はカワセミやカワラヒワ、モズ、オナガなどでも見られます。メスはまるで雛のように羽を震わせてオスに餌をねだる愛らしい姿を見せてくれます。

夕暮れの浜辺での求愛給餌。

コアジサシが集団で子育てをするのは植物の生えていない河原や海岸の砂浜や砂礫地、埋立地などの造成地です。こうした裸地での繁殖は、チョウゲンボウなどの猛禽類やカラス、野良猫などの動物といった外敵、そして人間の活動エリアと重なるなど、コアジサシにとって過酷な環境にあります。また、一度繁殖が成功しても、営巣地は洪水や人間の経済活動で環境が激変するリスクと常に隣り合わせなのです。実際に千葉市などが毎年営巣地の保護活動を実施している海岸では、数百の巣が作られても、雛が巣立つまでに外敵に襲われたり台風などで発生した高波に巣ごとさらわれたりして、巣立ち雛はほぼ全滅ということもありました。このため、コアジサシは環境省によって絶滅危惧Ⅱ類(VU:絶滅の危険が増大している種)に指定されています。

孵化して数日経った雛に餌の魚を与える親鳥。親鳥のお腹の下にはまだ孵化していない卵がある。
強い日差しが照りつける砂浜で親鳥から餌を受け取る幼鳥。

マナーをもって観察を

コアジサシが飛翔する姿は広い河原や沼、埋立地などで観察できますが、その姿を比較的間近に観ることができる営巣地では注意が必要です。保護するロープで囲われている営巣地では、抱卵中の巣や幼鳥のそばから離れられない親鳥に刺激を与えないよう姿勢を低くして観察しましょう。また、そのような場所に立っていると、親鳥が人間に対して威嚇行動を取ることがあります。この場合はロープからの距離にかかわらず速やかにしゃがんだり営巣場所から距離を取ったりしましょう。日本はコアジサシの繁殖の中心地です。思いやりを持って観察したいものです。

プロフィール
文・写真/中村雅和
幼少期から生き物や鉄道に親しむ。プロラボ、住宅地図会社の営業マン、編集プロダクション、バス運転士、自然保護団体職員などを経てフリーの編集者に。

 

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