生活に余裕がなく健康診断を受けていない
娘は地元の県立高校から、推薦で都内の中堅大学に進学する。
「娘は何でも一人で決めて、自由に行動することが幸せみたいだったんです。だから、私も“便りがないのは、よい便り”とほっといたんです。大学卒業後、どっかの会社に入ったんですが、ブラック企業だとすぐにやめてしまいました。その後は派遣社員をしたり、飲食店でバイトをしたり、介護系の仕事やライターのまねごとをしながら37歳までフラフラしていたんです。たまに“お金がない”と連絡が来るので、10万円、20万円と振り込んであげていました」
娘は盆暮れには顔を出しており、親子関係は良好だった。娘から着信があったとき「いつもはLINEなのにおかしいな」と思って出たら、悪い予感が当たった。
「“ママ、私、がんになっちゃった。ステージ4のすい臓がんだって。助からないんだって”と泣いている。すぐに娘のところに行きたかったけれど、その日は夫の通院もあるし、お店の厨房機器の買い取り業者さんも来る予定だった。翌日から私のペーパードライバー講習があることもあり、すぐに駆け付けることはできませんでした」
そこで、娘に「帰って来なさい」と言ったら、体調が悪くて動けないという。そこで、玲子さんは全ての用事を終わらせた後、2時間近くかけて娘のアパートに行った。
「正月に帰ってきたときに、“痩せたな”とは思っていたのですが、ますます痩せていました。娘のアパートは狭く、雰囲気が暗い。そこに娘がぽつんと座っているんです。その姿が、切なくて、痛々しくて涙がこみ上げましたがこらえました。私は常に笑顔でなくてはいけない」
汚部屋とは言わないまでも、ゴミだらけの部屋だった。恋人が来ている形跡もなく、未来がある感じもしなかった。
「よく、テレビで“孤独な貧困女性”という報道がされますが、あのまんまだったんです。安っぽいキャラクターグッズやぬいぐるみ、化繊の服や100均の食器などにあふれていました。娘はこの絶望的な部屋で20年近く暮らしているから、自らがんになってしまったのではないかと。聞けばお金と時間に余裕がなく、健康診断を一度も受けたことがないということでした」
【最後は家族3人で暮らすために……後編へと続きます】
取材・文/沢木文
1976年東京都足立区生まれ。大学在学中よりファッション雑誌の編集に携わる。恋愛、結婚、出産などをテーマとした記事を担当。著書に『貧困女子のリアル』 『不倫女子のリアル』(ともに小学館新書)がある。連載に、 教育雑誌『みんなの教育技術』(小学館)、Webサイト『現代ビジネス』(講談社)、『Domani.jp』(小学館)などがある。『女性セブン』(小学館)などに寄稿している。