取材・文/沢木文
親は「普通に育てたつもりなのに」と考えていても、子どもは「親のせいで不幸になった」ととらえる親子が増えている。本連載では、ロストジェネレーション世代(1970~80年代前半生まれ)のロスジェネの子どもがいる親、もしくは当事者に話を伺い、 “8050問題” へつながる家族の貧困と親子問題の根幹を探っていく。
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急激に進む少子高齢化で2021年に「高年齢者雇用安定法」が改正された。これにより、65歳までの雇用確保義務に加え、70歳までの就業機会の確保が努力義務となった。さらに 2025年4月からは継続雇用制度の経過措置が終了し、企業側は希望する労働者全員を原則雇用しなければならなくなるのだ。
これに対し、上場する機械メーカーに勤務していた豊夫さん(64歳)は「再雇用で嬉々として働けるのは“いいひと”だけ。俺も65歳まで働きたかったけど、途中で辞めたから金に困っている」と語る。
64歳なのに、娘は11歳…再婚の誤算が老後に影を落とす
豊夫さんは、一年前に会社を辞めた。彼はある機械関連のメーカーに勤務しており、部長職まで上り詰めたが役員には手が届かず、定年を迎えた。その後、再雇用されて、同じ会社に勤務していたが、65歳の定年を待たずに辞めた。再就職活動をするも、全くいい条件の仕事はない。今お金の不安とともに生活しているという。
豊夫さんが勤務していた会社は、上場している大手企業だ。現役時代の収入も高かっただろう。なぜ、困っているのだろうか。
「前の離婚ですべてむしり取られたからですよ。前の妻とは25歳で結婚し、35歳で離婚しました。2人の息子がいたのですが、まったく会っていません。もう37歳と34歳か……どんな男になっているんでしょうね。離婚原因が私の浮気だったこともあるから、元妻は徹底的に私に会わせなかったんです」
せめて、父親としての愛情を示そうと、養育費を毎月18万円、17年以上払い続けたという。
「年間216万円、下の息子が大学を出るまでだから、17年間で約3500万円です。会ってもいない子供2人に、我ながらよく払ったものですよね。下の息子が22歳で大学を卒業して、養育費の支払いが終了。私は52歳になっていました。その祝杯をあげたときに、当時40歳の今の妻と知り合ったのです」
妻は小劇団で俳優として舞台に出つつ、夜はスナックでアルバイトをしていた。
「現在52歳の妻の世代は、大学演劇が盛んで、下北沢や新宿、中野などで多くの小劇団が公演を行っていたそうなんです。大学の演劇研究会で演劇に没頭した妻は、40歳になるまでアルバイトと公演の掛け持ち生活をしていたんです。当時、市ヶ谷にあった風呂なしアパートに20年以上も住んで、夏場は流しでシャワーを浴びているというそのバイタリティに惹かれたんです」
私立大学の理系の学部を卒業後、大企業に入りエリート街道を進んできた豊夫さんにとって、彼女の考え方や人生は斬新だった。
「養育費も終わったし、自分は自由になった。妻はなんというかコケティッシュでかわいい人なんですよ。この人を守る人生もいいのではないかと思い、同棲することにしたんです」
52歳の男と、40歳の女……酸いも甘いも知った大人同士の落ち着いた生活が送れるかと思ったら、妻は表現者らしく激しかった。感情の起伏も幅が広く、愛情を求める行為もエキセントリックだったという。
「すべてが新鮮で、日々を過ごすうちに、妻が妊娠したんです。当時、今のように生殖医療は発展していなかったので、40代の女性が妊娠するとは全く思っていなかった。慌てて入籍して、妻は41歳で出産。私は53歳でパパになったんです。この再婚が大誤算でした」
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