取材・文/坂口鈴香

昨年10月、ザ・ドリフターズのメンバーだった仲本工事さんが交通事故で亡くなったのは、まだ記憶に新しい。

報道によると仲本さんは、事故に遭った翌日に急性硬膜下血腫を起こしたとのことだが、同じように交通事故で母親を亡くした女性は「やはり」と思い当たったという。

「うちの母も車にはねられました。かなり大事故だったとのことでしたが、事故当日は意識もはっきりしていて、普通に会話もできていたそうです。それが翌日に急変して亡くなってしまいました。実家の兄からは、『大した怪我ではないし、頭もしっかりしているから、すぐに帰って来なくてもいい』と言われていて安心していたので、死に目にも会えませんでした。こんなに急に亡くなってしまうなんて。急変したのは病院のミスではないかと疑っていましたが、仲本さんの死亡原因を聞いて、母もそうだったんじゃないかと思いました。病院から急性硬膜下血腫の可能性を示されていれば、私もすぐに母のもとに駆けつけていたのにと思うと残念でなりません」

「急性硬膜下血腫」とは、“けがによって生じる、脳を覆っている硬膜と脳表との間の急性出血”だ。“脳の表面の血管の損傷が原因となることが多く、脳そのものの損傷(脳挫傷)を伴うこともあります”(慶應義塾大学医学部外科 脳神経外科学教室HPより)

増加する高齢者の交通死亡事故

高齢ドライバーによる交通事故が問題になり、免許返納を求める声は大きいが、高齢者が事故の被害者になることが多いのも忘れてはならない。

警察庁交通局が発表した、2022年の交通事故発生状況によると、交通事故の死者数は2610人とこの10年以上減少を続けているが、高齢者人口自体が増加しているため、死者全体のうち高齢者が占める割合は増加傾向にあり、昨年度は過去最高だった2021年の57.7%に次ぐ56.4%となっている。ちなみに、75歳以上の高齢運転者による死亡事故は379件。一概に比較はできないとはいえ、高齢者の交通事故は被害者となる方がずっと多いことをもう少し注意喚起したいところだ。

高齢者の状況別死者数の内訳を見ると、歩行中が706人(73.9%)、自転車乗用中が220人(65.5%)※と、自動車乗車中や二輪車乗車中に比べて高齢者が歩行中や自転車乗用中に死亡する事故が多いのがわかる。

※()内の数字は全年齢層における65歳以上の高齢者の割合。

なお、歩行中の死亡事故では、高齢者の道路横断中の事故は77%を占めている。なかでも横断歩道以外の道路を横断中に車両と衝突する事故が5割近くとなっており、65歳未満の横断歩道以外の道路横断中の事故が2割なのとは対照的だ。仲本さんも前出の女性の母親も横断歩道以外の道路での事故だった。女性の母親は、道路をはさんだ目の前にあるスーパーに行こうと、道を横切ったところで事故にあったのだという。横断歩道まで遠回りをしたくないという高齢者の気持ちもわかるが、事故の危険度が増すのはデータにも表れている。

命は助かっても、高齢者が事故に遭うとその後の生活への影響は大きい。

【あの事故さえなければ。後編に続きます】

取材・文/坂口鈴香
終の棲家や高齢の親と家族の関係などに関する記事を中心に執筆する“終活ライター”。訪問した施設は100か所以上。20年ほど前に親を呼び寄せ、母を見送った経験から、人生の終末期や家族の思いなどについて探求している。

 

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