取材・文/坂口鈴香

「舞いあがれ!」で描かれた親の介護問題

「老人ホームの施設長はシスター」(https://serai.jp/living/391763

で紹介した鶴田康代さん(仮名・60)は、修道会が運営する老人ホームで施設長を務めていたが、現在は同じ県内の離島にあるホームで生活相談員として働いている。働く、という表現は適当ではないかもしれない。鶴田さんたち修道会では「奉仕」と位置づけている。

3月までNHKで放送されていた朝の連続テレビ小説「舞いあがれ!」の舞台のひとつが長崎県にある五島列島だ。離島で奉仕する鶴田さんの姿を重ね合わせながら、ドラマを楽しんでいたところ、その鶴田さんから「『舞いあがれ!』を見て、分かち合いたいことがあります」とメールをもらった。

「ばあばがメインの週のことですが、身体がちょっと不自由になってしまった老親をめぐる家族の問題がリアルに描かれているなと思いました。高畑淳子さん他、役者さんたちの演技も良かったです」

「舞いあがれ!」は終盤、主人公の舞の祖母、高畑淳子さん演じる“ばんば”の介護問題が起こった。“ばんば”は舞の母めぐみの母親で、めぐみの出身地五島列島の「知嘉島」(架空の島)で、亡くなった夫の船を操縦して瀬渡しをしたり、ジャムをつくって地元の店に卸したりしながら一人暮らしをしていた。ところが、70代から80代になった“ばんば”は、脳卒中で倒れる。五島列島の中心地である福江島と思われる病院に入院したが、左半身にマヒが残る。めぐみは担当医から「今後、一人暮らしはさせない方がいい」と言われ、めぐみが住む大阪に“ばんば”を呼び寄せることを決意し、大阪で一緒に暮らしてくれるよう頼む。当初は拒否していた“ばんば”も、めぐみがいずれ社長を引退し(めぐみは亡くなった夫が営んでいた町工場の社長を務めている)、ともに五島に戻るつもりでいると伝えられると、大阪に行くことを受け入れる、という流れだった。

一次離島と二次離島

医師が「もうこれ以上一人暮らしは難しい」と家族に伝えることは少なくない。ましてや“ばんば”が住むのは離島、それも福江島からさらに離れた小さな島だ。“ばんば”に何かあっても、福江島に運ぶだけでも大ごとだ。それでも、いくら娘や孫がいるとはいえ、島とはまったく環境の違う大阪に行かねばならなかったのか。他に方法はなかったのだろうか。

前出の鶴田さんも、同じ思いを持ったようだ。

「ばんばが大阪に行くことになったとき、私も『えー、ばんば大阪に行くの?』と思いました。周りの人たちも助けてくれそうなのにと。でも、めぐみさんの、母と暮らしたいという気持ちもわかります。遠くで心配するよりは、そばにいてほしいでしょう。どうしても帰りたくなったら、めぐみさんも一緒に五島に戻るとの決意もありましたし」

鶴田さんがそんな感想をもらすのも、離島で暮らす老いた親と、離島を離れた子どもたちの葛藤を間近で見てきたからだ。

「こちらでは、子どもが皆県外に出てしまっているというのはよくあるケースです。島に残っている親の老後をどうするのか。自分のところに呼ぶのか、島に戻って面倒を見るのか、あるいは地元で施設を探すのかなど大問題だと思います。うちのショートステイやデイサービスを利用している方たちの中にも、他県にいる子どもさんのところに行かれた方、娘さんが母親の介護をするために単身帰郷され、施設入所を見届けてやっと家族のもとに帰られた方などいらっしゃいます」

ここで注意したいのが、同じ離島でも、福江島という“一次離島”と「知嘉島」のような“二次離島”とでは、同じ離島でも介護医療体制は大きく違うということだ。ちなみに、本土と直接つながる交通手段を持つ島は“一次離島”、直接の交通手段がなく、近隣の島から渡るしかない島は“二次離島”と呼ばれている。

“ばんば”が福江島の病院に入院したように、まだ一次離島なら医療体制も整っているし、鶴田さんの修道会が運営しているような高齢者施設もある。デイサービスや訪問介護も利用できる。一方で、二次離島となるとまったく条件は違ってくる。例えば、鶴田さんの修道会では市からの依頼を受けて、二次離島で月に2回「ミニデイ」をはじめる予定だという。二次離島では、週に複数回通えるようなデイサービスなどは望めないのだ。

「私たちがミニデイをはじめる予定の島は人口100人未満ですが、それは帳面上の数字で、現に介護が必要になった方は福江島のような一次離島の老人施設や病院に入っているので、実際に島にいる人の数はもっと少ないのです」

後編に続きます】

取材・文/坂口鈴香
終の棲家や高齢の親と家族の関係などに関する記事を中心に執筆する“終活ライター”。訪問した施設は100か所以上。20年ほど前に親を呼び寄せ、母を見送った経験から、人生の終末期や家族の思いなどについて探求している。

 

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