テレビ番組『ホンマでっか!?TV』ほか数々のメディアに登場し、積極的に発信を行なう堀井亜生(ほりい・あおい)弁護士(46歳)は、これまでに2000件を超える離婚・恋愛トラブルを扱ってきました。今年2月に『モラハラ夫と食洗機』を上梓した堀井弁護士によると、とくに最近増えているのがモラハラによる熟年離婚の相談。

今回紹介するのは、夫の「役職定年」がきっかけで離婚を考え始めた50代夫婦の事例です。モラハラの実態と、意外な結末から、壊れかけた夫婦がとるべき最善の道を、堀井弁護士と考えていきましょう。

文/堀井亜生

皆さんは、役職定年という制度をご存じですか

企業によっては、通常の定年退職を迎える前に、一定の年齢で部長や課長などの役職を外すことがあります。これが、役職定年です。

企業にとっては、人件費の高騰を抑えたり、管理職の新陳代謝を促したりする狙いがあります。 役職定年後も定年まで働くことができますが、役職から外れるため役職手当などがカットされます。つまり、管理職時代よりも収入が下がるのです。

そして近年、この役職定年がきっかけとなった熟年離婚が増えています。 その中から、A子さんの事例を紹介します。

理由は暇になったから? 給与が下がり不安が募った?

50代・専業主婦のA子さんは、大企業で働く夫を支えながら、家事や子育てをしてきました。家計はA子さんが管理して、ゴルフや飲み会などに頻繁に出かけて自由に小遣いを使う夫に対して、こまめに節約をして子どもたちを大学まで卒業させました。

夫は55歳になると、役職定年によって部長職を外れました。すると夫は給与が下がったことで焦ったのか、今まで任せきりだった家計管理に口を出すようになりました。

通帳をくまなくチェックしては「俺が頑張って働いてきたのに貯金が少ない」と言い、A子さんが無駄遣いをしてきたのではないか、老後の生活はどうするんだと、毎日のようにA子さんをなじるようになりました。 時にはA子さんの買い物のレシートを見て怒ることもあります。

A子さんとしては、納得ができません。A子さんは自分の洋服や美容代も我慢して、少しでも安いものを買いに遠いスーパーに行ったりと、節約に励んでいました。「お前も老けたな」と馬鹿にしたり、時には香水のにおいをさせて深夜に帰宅する夫に憤りを抱くことはあっても、我慢してきました。

給料をあるだけ使う夫に気を遣い、できるだけ節約をして子どもたちの学費もきちんと捻出してきたのに、感謝どころか毎日怒られるようになったのですから、当然ですよね。

レシートや通帳をチェックしていろいろ言ってきますが、そもそも全く家計に関わってこなかったので、どれも的外れです。

「生活費は月12万円」じゃパートしても家賃を払ってギリギリの生活!

A子さんは夫に嫌気がさし、退職後も一緒にいるのは無理だと思うようになりました。

熟年離婚して退職金と年金を半分もらおうか、それともまずは別居から始めようか、どうやら別居しても法律上は夫から生活費(婚姻費用といいます)がもらえると聞いたことがあるし……。いろいろ考え始めたA子さんは、私の元へ法律相談に訪れたのです。

法律相談では何をしてもらえるのか、なかなかイメージしにくいですよね。

たとえばA子さんのケースだと、夫婦双方の収入や財産から、離婚や別居をした場合のシミュレーションができます。婚姻費用の計算方法や夫婦の財産にはどのようなものが含まれるかには論点があり、インターネットの知識だと不正確なこともあるので、弁護士に見通しを聞くことはとても重要です。

計算の結果、別居をした場合、現在の夫の収入だと毎月もらえる生活費は12万円とわかりました。

A子さんは悩みました。別居後は気に入った物件を探し、ひとり暮らしをしたいと望んでいましたが、12万円では、パートをするにしても家賃を払って生活するには足りません。

それなら離婚し、退職金の半分を分けてもらおうと、後日、夫から会社に退職金の額を問い合わせてもらいました。

すると退職金額は現時点で1400万円とわかりました。半分もらえるとすると、700万円が自分のものに。ならばいいか――とA子さんは思います。しかし、この計算は正しくありません。離婚したからといって、必ずしも半分の額をもらえるわけではないのです。

現実を知り「55歳で揉めている場合ではない」と覚悟を決めた。次ページに続きます

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