取材・文/坂口鈴香
中澤真理さん(仮名・56)は、コロナ禍で九州で暮らす父の要さん(仮名・98)、母の富代さん(仮名・92)のもとにしばらく帰ることができなかった。半年ぶりに帰ると両親の衰えぶりが目立ち、要さんの介護サービスを増やす手続きを進めた。ちょうどそのころ、富代さんの上の妹八重子さん(仮名)が突然亡くなり、死後の手続きに富代さんや下の妹宣子さん(仮名・85)とともに忙殺された。
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父の骨折。東京に戻れなくなった
中澤さんが、両親の介護の「フェーズが変わった」と感じたときがある。叔母の急死による雑事をひとまず終えた中澤さんが、東京での仕事のかたわら両親の病院通いで忙しい日々を送っていた2022年6月、要さんが胸椎を圧迫骨折したのだ。
フェーズ2のはじまりだった。
「デイサービスでリハビリをしようとしたら腰が痛いというので、ケアマネジャーと母に連絡が来て病院に連れて行ったそうです。とにかくひどい痛みで動けないのに、病院で痛み止めとコルセットを出そうと言われても、いらないと拒否する。激痛でじっとしていられないので、MRIを受けることもできないと言うんです」
連絡を受けて東京から急いで帰ると、“下の世話地獄”が待っていた。
「痛みで尿意も感じなくなっていて、トイレが間に合わないんです。しばらく家で世話していたのですが、父の痛みがあまりにひどいし、私も母も疲労困憊してしまったので、担当医に入院させてもらうようにお願いしました」
20年前に腰にボルトを入れた経験があり、「二度と入院したくない」と抵抗していた要さんだったが、強行した。このときから、中澤さんの生活ベースは九州になった。以来、現在まで東京に戻れていないという。
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