取材・文/沢木文
「女の友情はハムより薄い」などと言われている。恋愛すれば恋人を、結婚すれば夫を、出産すれば我が子を優先し、友人は二の次、三の次になることが多々あるからだろう。それに、結婚、出産、専業主婦、独身、キャリアなど環境によって価値観も変わる。ここでは、感覚がズレているのに、友人関係を維持しようとした人の話を紹介していく。
英恵さん(仮名・58歳)は、娘(20歳)との関係に悩みを抱え、友人の由貴子さん(60歳)に相談するようになる。由貴子さんから「母親失格」と言われたことで、心身の状態を崩しているという。
年齢を重ねてできた娘はかわいい
英恵さんには、最愛の一人娘がいる。38歳のときに授かった子で、文字通り「目の中に入れても痛くない」と思っている。
「今のように不妊治療も一般的ではない時代で、夫婦で苦しんで、大金をかけた末にやっと生まれた命なんです。38歳の初産は、当時にしてみればとても珍しく、一般の産院では断られてしまい、NICU(新生児集中治療室)がある病院を紹介されました。妊娠中も切迫流産だ、早産だと大変だったんです」
現在こそ、38歳での初産は珍しくない。しかし20年前は違ったという。周囲から「どのような状態で生まれてくるか検査しろ」とか「万一のためにあきらめた方がいいのではないか」などと言われたという。
「心配しすぎて眠れないようなこともありましたが、主人が“どんな子だって、俺たちの子だ”と言うから、産むことにしたんです。実際に産まれてみれば、なんということもなく、輝くばかりに元気な赤ちゃんでした」
英恵さんの性格は、他人の影響を受けやすい。誰かに何かを言われると、本気で真に受けてしまうところがある。
「それは主人にも言われます。10年来の女友達・由貴子さんにも言われていました。自分の将来のこと……例えば病気や老後のことも不安ですが、娘については不安なことが多すぎて、どうしていいかわからなくなるんです」
不安なあまり、娘には行き届いた世話をしていた。
「幼いころから、ピアノ、バレエ、英語、水泳はさせていました。目が悪くなるからテレビもゲームもさせなかったし、絵本の読み聞かせは2万冊以上行いました。一緒に勉強をしたり、季節の行事を楽しんだりして、私立小学校に合格。送迎も私が行っていました」
女友達・由貴子さんは、この送迎で親しくなった。
「娘を通わせた小学校では、車送迎が禁止されていました。お母様たちは紺のスーツで送迎するのに由貴子さんだけはシャツとパンツというカジュアルなスタイルで、禁止されている車送迎をサラッと行っていたんです」
【伝統的な家のおてんばなお嫁さん……次のページに続きます】