取材・文/沢木文
「女の友情はハムより薄い」などと言われている。恋愛すれば恋人を、結婚すれば夫を、出産すれば我が子を優先し、友人は二の次、三の次になることが多々あるからだろう。それに、結婚、出産、専業主婦、独身、キャリアなど環境によって価値観も変わる。ここでは、感覚がズレているのに、友人関係を維持しようとした人の話を紹介していく。
由美さん(仮名・62歳)は、パート仲間の素子さん(59歳)に振り回され、心が病んだ結果、退職を余儀なくされたという。
「オマエに仕事ができるか?」という夫の反対
由美さんは、1年前に35年ぶりに働きに出た。きっかけは夫(60歳)が定年退職したこと。「主人とずっと一緒にいると、息が詰まったから。主人は大手住宅メーカーで定年まで勤めあげたんですけれど、“昭和”なんです。家事も一切したことがないし、私のやることは文句ばかり。とっくにあきらめていたんですが、ずっと家にいると部下にダメだしするみたいに、私に小言を言い続ける」
例えば、由美さんが新しいブラウスを買うと、「いつ買ったんだ」と言ってくる。出費をとがめられたと受け取った由美さんが「ちょうど安かったのよ。ごめんなさい」と言うと、「そういうことじゃない」と小さくキレる。言い返すと議論を吹っかけられるので、「ごめんなさい」と家事に戻る。
「主人は一方的に話すところがあるんです。一応、それなりに出世をしたので、会社ではうまくやっていたんだと思いますが、家に帰ると“社交性のスイッチ”を切る。私や娘(35歳)に対して当たりがきつく、娘はコロナを言い訳に実家に寄り付きません」
娘は「ママはパパの顔色ばかり窺っていて、そんなんでいいの?」と何度も言った。
「専業主婦だったので、主人に嫌われては娘を育てられない。でもよく考えると、もう娘は手を離れている。主人と一緒の空間にいたくない一心で、パートをすることにしたんです」
仕事はスーパーの総菜調理。夫は「そんな仕事」とバカにするように笑った。見下すような発言を繰り返した。由美さんが無言で抗議をすると、「オマエに仕事ができるのか?」と反対するかのように言う。
「家事の延長線上にある仕事だと言うと、“それならお遊びだな”とバカにする。主人が言う“仕事”とは、スーツを着た男が命がけで取り組むものらしいです。でも、それを支えているのは誰なんだと思いましたが、黙っていました」
【“仕事”は生易しくはなかった……次のページに続きます】