取材・文/坂口鈴香

沢村寛之さん(仮名・60)は母、恒子さん(仮名・86)と二人で暮らしていた。認知症となった恒子さんが、半年ほど前に急に無気力になったかと思ったら、夜中に大声で叫び暴れ出した。静かにさせようと恒子さんを押さえつけた沢村さんは、ケアマネジャーと市の職員に虐待を疑われてしまう。しばらくショートステイで預かってもらうことになり、それを耳の遠い恒子さんに説明させてほしいと言っても許されず、その強引なやり方に不信感が募っていた。

母親への虐待を疑われた息子(1)はこちら。

ショートステイ2日目の異変

ところがショートステイをはじめて2日後、施設から「恒子さんが吐いて、熱も出ているので、救急車を呼びます」と連絡がきた。

「それまで母は何年も熱など出したこともないのに、ショートステイに行ったとたん、吐いて熱を出したなんてどう考えてもおかしい。施設が何か隠しているんじゃないかと疑念を抱きました」

救急病院に駆けつけると、恒子さんの目は焦点も定まらず、ボーっと宙を見つめるばかり。口もきけない、歩くこともできない状態だった。ショートステイ中に恒子さんを拘束したのではないかと沢村さんは施設を疑った。

「施設は熱が出ていると言っていましたが熱もないし、医師も『どこも悪いところはありません』と言う。そして『ここは救急病院だから帰ってもらっていい』と言うんです。たった2日のショートステイで、こんな廃人のような状態にさせられて、今さら自宅に戻るなんてできるわけがないじゃないですか。ショートステイ先の施設職員も、それまでもっと滞在を延ばしませんかとか言っておきながら、こんな状態になるともう預かれないと言う。こんなことってありますか?」

ケアマネジャーにも病院に来てもらい、どうしたらよいか助けを求めようとしても、逆に「どうしましょうか」とオロオロするばかり。怒りが頂点に達した沢村さんは、思わず怒鳴った。

「どうしたらいいかって? それは私がする質問ですよ!」

まるで犯罪者扱い

誰もあてにできない。もう自宅に連れて帰るしかないと覚悟を決めた沢村さんは、介護タクシーを呼んだ。それを見て慌てたケアマネジャーとショートステイ先の職員が転院先を探してくれて、入院できることになった。

恒子さんの転院先が決まったことに安心して、ショートステイしていた施設に恒子さんの荷物を取りにいった沢村さんは、施設への憤りをさらに募らせることになる。

「施設に市の職員が来るから、話を聞かせてほしい」と伝えられたのだ。

「市のケースワーカーと社会福祉士などが3人も来ていて、事情聴取をするんです。まるで私が犯罪者と言わんばかり。刑事による取り調べのようでした」

たまらず、沢村さんはケアマネジャーに詰め寄った。

「自分の親が夜中に大声で叫んで暴れたらどうするんですか!? パニックにならないと言えますか!」

沢村さんの激しい剣幕にケアマネジャーは何も答えられず、おびえたように市の職員の陰に隠れてしまったという。それを見た沢村さんの怒りはいっそう増し、「専門職なら黙ってないで何とか言いなさいよ!」と迫った。

「ケアマネジャーは顔面蒼白になって、一言『警察』と言いました。介護のプロが、自分の親がせん妄を起こしたら、警察を呼ぶというのでしょうか。あきれました。ケアマネジャーがこの場に来たのは、私や母のためではなく、上司や市に虐待の報告をあげるためだったんでしょう」

そして、市の職員はショートステイ中の恒子さんに、すでに会っていたことも判明して唖然としたという。

「私には一切面会を認めなかったのに、私の許可もなしに他人が母に会ったというんです。施設を問い詰めると、『施設も市に言われると断れません』と弁解しました。これが日本の地域包括システムなんですか。人を犯罪者扱いしておいて、何をかいわんやですよ」

沢村さんはその場でケアマネジャーを解任した。「もうあなたには頼まない」。

母親への虐待を疑われた息子(3)につづく。

取材・文/坂口鈴香
終の棲家や高齢の親と家族の関係などに関する記事を中心に執筆する“終活ライター”。訪問した施設は100か所以上。20年ほど前に親を呼び寄せ、母を見送った経験から、人生の終末期や家族の思いなどについて探求している。

 

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