牧師の家庭に生まれ、結婚して牧師の妻となり、自らも牧師になったミツコさん。夫亡き後は、協力牧師をしながら、ひとりで年金生活を送っている。毎月の生活費は年金7万円がメイン。経済的に余裕のある生活ではないが、お金がないからこそ感じる喜びがあるという。そんなミツコさんの著書『74歳、ないのはお金だけ。あとは全部そろってる』から、明るいひとり老後を送るコツをご紹介します。
物を大切に扱うことが、節約につながる
今の住まいにある家具は、どれも昔から使っているものばかり。写真の簞笥は、夫の叔父から譲り受けた年代物です。正確なところはわかりませんが、明治生まれの人だったので、60~70年は前に作られたのではないでしょうか。昔のものは作りがしっかりしており、壊れません。長年使っていますが、引き出しも問題なく動きます。
とはいえ、サイズが大きく場所をとるので、今の住まいに引っ越しをするとき、いよいよ処分しようかと考えました。でも、娘のひとりから、「置けるような家に引っ越したら引き取るから、もう少し持っていて」と言われました。まだまだ行き先がありそうです。
簞笥の奥にある食器棚は、叔母が買い替えるからともらったもので、40年ぐらいは使っています。なぜか簞笥と奥行きも木の色味も同じで、並べて置いても違和感がありません。
電子レンジやトースターは17年ほど使っています。今は高性能なものがあるようですが、いずれも温めるだけ、パンを焼くだけのシンプルな機能で十分なので、壊れるまで使い続けるつもりです。電卓は乾電池式の45年選手です。問題なく使えているので、買い替えることなく今に至ります。長く使ってはいますが、物に特別な思い入れはありません。物は物。でも、あるものは大切に使いたい。
今は、まだ使える家電でもどんどん買い替える風潮ですが、壊れるまで使いたいという思いです。物には「寿命を全うしてもらう」という考えです。結果的に節約になっています。
壊れないように、大事に扱っているということもあります。躾に厳しかった父から、「扉をしめるときは音を立てない」とか「蓋は静かにしめなさい」などと言われていました。
私が直接言われたわけではなく、兄や弟の扱いが乱暴だったのか、よく注意をされていて、それを聞かされているうちに自然と「物は優しく扱う」ことが身についたのだと思います。
30年ほど使っている革の表紙の聖書は、ずっと欲しかったものでした。聖書は何冊か持っていますが、革の表紙のものは高価なので、やっと買えたときはうれしかったです。
聖書そのものに思い入れがあるというよりは、勉強してきた過程が書き込まれていることが、私にとって宝物。とくに59歳から10年間牧師をしていたとき、説教をする前にじっくりと読み込むなど、苦労を一緒にしてきたことです。
今でも、この聖書で勉強しています。他の聖書にはしなかったけれど、これにはどんどん書き込んでいきました。書いてあることを読めば、過去に自分がどんな解釈をしたかがわかるし、今あらためて考えているときの指針にもなっています。
まだまだこの聖書で、勉強を続けていきたい。いつ読んでも、常に新しい発見があります。若い頃はよくわからなかったけれど、年齢を重ねた今だからこそ、より深く理解できることもあります。一生、勉強だと思っています。
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『74歳、ないのはお金だけ。あとは全部そろってる』(牧師 ミツコ 著)
すばる舎
ミツコ
牧師。1946年生まれ。8人きょうだいの5番目として牧師家庭に育ち、自身も牧師を志す。神学系の大学を卒業後、同じく牧師の夫と結婚。夫婦二人三脚で47年間教会を運営。その傍ら、娘4人を育てる。娘たちはいずれも早くに独立し、孫が16人。長年闘病していた夫を2016年に見送る。その後は住まいを引き払い、単身公営住宅に。現在も協力牧師として、週2回教会につとめ、日曜礼拝で説教することも。牧師は富とは無縁の仕事。お金がないならないで、工夫をして楽しく暮らす。過去を振り返ったり将来を心配したりせず、「今ここ」に心をこめて生きるのを大切に。