人生100年時代のいま、長く人生を楽しむためには、健康寿命を延ばすことが重要である。
老化を防ぐための情報は溢れているが、老化のメカニズムについて知る機会は少ない。そこで、ミトコンドリアとの共生に始まる生命の歴史を辿ることで、老化のメカニズムを説く『順天堂大学の老化医学に学ぶ 人はなぜ老いるのか』から、老化の原因とその対策についてご紹介します。
文/ 佐藤信紘・佐藤和貴郎
見た目の老いは内面を映し出す
見た目の若い人が内面も健康で若いというのは、ある程度は正しい見方です。見た目の肌つやがよく、目の輝きがあるというのは、脳や血管の老いが少ないため血液循環・組織代謝がよいということです。姿勢、歩き方、話し方などが若々しいのは、筋力があって神経伝達の速度も速く、リズミカルな状態を維持していると見ることができます。
逆に、目に輝きがない、肌に潤いがない、動きが緩慢であるなど年齢以上の老いを感じさせる場合は、血流の悪さや神経伝達の速度低下、皮膚や組織の代謝が落ちていることを示しているのです。見た目が美しいことに注意を払うことは、老化予防にとっても大切なことです。
医師であれば、患者さんが診察室のドアを開けて入り椅子に座る様子をつぶさに観察し、見た目からも情報収集して、正しい診断に役立てようとするわけです。
老いには水不足と酸化が影響していた
見た目を左右する体の内面の変化の一つは水分量の低下です。加齢や老化、病気がある人の多くは、エネルギー源である食物の摂取量と代謝が低下します。そしてミトコンドリア機能が低下・退化していることがわかっています。するとエネルギーの産生、ATP産生が低下すると同時に、水の生成が減るのです。そのために血流が悪くなり、皮膚が乾き、目に潤いがなくなるのです。
水は地球上で、液体として最も大量に存在し、酸素などの気体や様々な物質を溶かし込みやすいという特徴を持っています。また、比熱が大きいために温まりにくく冷めにくい、温度変化しにくいことも特徴です。地球に水があることで、地球自身も私たち生命も、エントロピー増大を防いで温度を一定に保つことができているのです。
体温を一定に保つ恒温動物として、私たちヒトは細胞の内外が水で満たされていることが特に重要です。一般的に高齢者では、若い頃に比べると体内の水分量が約10%減少します。すると気温の変化や食事量の不足、おなかを壊すなどちょっとしたことの影響で体温が上下します。体温が上がっても汗をかいて体内の熱を放出することもできません。また、汗をかきすぎると脱水症が起こり食事や水分を摂る気力がさらに低下し、血液中の水分量が減って低血圧や腎機能の低下などの問題が起こりやすくなります。
そこで細胞内外の水を減らさないために、よくいわれているように十分に水分摂取を行うことが大切です。さらに重要な問題は、細胞内で水を作るシステムをいかに維持するかということであり、ミトコンドリアをどう動かし続けるかということなのです。
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『順天堂大学の老年医学に学ぶ 人はなぜ老いるのか』(佐藤 信紘 、佐藤 和貴郎・著)
世界文化社
佐藤 信紘(さとう・のぶひろ)
学校法人順天堂理事、順天堂大学名誉教授・特任教授、順天堂大学ジェロントロジー研究センターセンター長、腸内フローラ研究講座代表、超高精細画像医療応用講座代表。(一般社団法人)日本療術学会会頭。1940年生まれ、大阪大学医学部卒業、大阪大学第一内科助教授、順天堂大学消化器内科主任教授、順天堂大学練馬病院初代院長、大阪警察病院院長、北陸先端科学技術大学院大学客員教授を歴任。
佐藤 和貴郎(さとう・わきろう)
国立精神・神経医療研究センター神経研究所免疫研究部室長、順天堂大学革新的医療技術開発研究センター非常勤講師。1973年生まれ。神戸大学医学部卒業。京都大学医学博士。神経内科専門医。2009年ドイツのマックスプランク神経生物学研究所神経免疫部門に留学。2013年より現職。