不動産を売却すると、売却によって得た利益に対し税金を支払わなければなりません。このとき売却予定の不動産の売買契約書を紛失していると、売却利益の計算をする際に不利な扱いを受けることがあります。特に先祖代々保有する古い土地を相続した場合など、売買契約書がどこにあるかわからないというケースはとても多いので注意が必要です。
そこで今回は、日本クレアス税理士法人の税理士 中川義敬が、長年にわたる不動産コンサルティングを通じて得た幅広い知識や経験に基づき、相続に密着に関わる不動産について、売却で生じる税金、売買契約書を紛失した場合のリスク、その対処方法をご紹介します。
目次
不動産売却にかかる税金は?
譲渡所得の計算方法
取得費の計算
できる節税対策はある?
まとめ
不動産売却にかかる税金は?
不動産売却にかかる税金は、主に利益に関するものと、手続きに関するものがあります。
利益に課税される税金
不動産を売却することによって得た利益は「譲渡所得」といい、確定申告が必要です。つまり、「譲渡所得」は個人の所得税や住民税の対象になります。不動産の譲渡所得にかかる税率は、譲渡した年(売った年)の1月1日における不動産の保有期間によって変わります。
・譲渡した年の1月1日時点の所有期間が5年以内… 所得税30%(※)/住民税9%
・譲渡した年の1月1日時点の所有期間が5年超え… 所得税15%(※)/住民税5%
例えば、2019年6月に土地を売った場合、2019年1月1日時点の所有期間が基準です。よって、2013年12月31日以前に購入した不動産であれば、所得税15%、住民税5%となります。
(※)所得税は2037年まで復興特別所得税(所得税の2.1%)が上乗せされます。(30%→30.63%、15%→15.315%)
手続きに関する支出
不動産売却に伴い必要となる支出として、次のようなものがあります。
・仲介手数料
仲介手数料の上限は、売買価格の3% + 6万円 + 消費税です。
・印紙税
印紙税とは、売買契約書に貼る収入印紙のことです。定められた金額の収入印紙を貼り、その上に割り印することで納税したとみなされます。印紙の金額は契約書の記載金額によって異なります。
・登記費用
売却した不動産に関するローンが残っている場合には、その抵当権を抹消する登記が必要です。登記には司法書士への報酬のほか、登録免許税が必要となります。
譲渡所得の計算方法
不動産の譲渡所得は、下記計算式で算出します。
譲渡所得 = 売却収入 -(不動産の取得費+不動産の譲渡費用)
売却収入から不動産の取得費や譲渡費用を差し引くことで計算することができます。
不動産の取得費や譲渡費用に該当する代表的なものとして下記内容が挙げられます。
(1)不動産の取得費に該当するもの
・土地や建物の購入費
・購入時の仲介手数料
・建物の減価償却費
(2)譲渡費用に該当するもの
・売却時の仲介手数料
・測量費などの売却のために直接要した費用
・建物の取り壊し費用
取得費の計算
不動産の譲渡所得の多寡を左右するのは、不動産の取得費に該当する「土地や建物の購入費」です。この金額の大小によって、所得税や住民税の金額も大きく変わることになります。購入費は、購入時に受け取った売買契約書があればすぐに判明するでしょう。しかし、大昔に購入した不動産などは売買契約書を紛失するなど、購入費を確認することができない場合が多くあります。
概算取得費
売買契約書を紛失した場合には「概算取得費」を用いて譲渡所得を計算します。しかし、概算取得費は、「売却収入(譲渡価額 = 不動産を売却した代金)の5%」しか計上することができません。仮に1,000万円で売却した不動産であれば、1,000万 ×5% = 50万円しか取得費として売却収入から控除できないのです。
購入した金額がわからなければ、この概算取得費を計上することになるため、不動産売買契約書を紛失すると、売却時に大きな損失となる可能性があります。
例外的な取り扱い
ただし、売買契約書以外の情報から、合理的な取得費の算定ができれば、その価額を取得費とすることが認められる場合もあります。あくまで例ですが、建売住宅であれば、購入したときの価額が記載されているパンフレット、住宅ローンの関連書類、土地であれば公的機関が公開する地価によって推定する方法なども可能性として考えられます。
ただし、決まった方法はなく、合理的といえるかどうかは、その不動産によって変わってくるのです。相続時の土地の評価もそうですが、不動産の合理的な取得費の算出は非常に難しく、相続や税務専門外の個人の方ではほぼ不可能です。「不動産を贈与したい」、「贈与や売却で得た不動産を売却したい」など、不動産と税に関するお悩みがあれば、まずは専門の税理士にご相談されることをお勧めします。
できる節税対策はある?
不動産を売却するときは、「相続財産を譲渡した場合の取得費の特例」や「マイホーム特例」、「空き家特例」など、所得税を軽減できる特例がいくつか存在します。「相続財産を譲渡した場合の取得費の特例」とは、相続により取得した不動産を一定期間内に売った場合、支払った相続税額の一部を、不動産の取得費に加算できる特例です。
「マイホーム特例」や「空き家特例」は、要件に該当する不動産の譲渡所得から、最大3,000万円を控除できる特例になります。もし売買契約書を紛失してしまい、概算取得費しか計上できそうにないとしても、こうした税金の特例を活用することで、税金の負担を軽減することができます。
また、相続した不動産を売却する場合は、売却時期についても注意が必要です。相続税には「小規模宅地等の特例」という、節税には欠かせない非常に有効な特例があります。ところが相続発生後すぐに土地を売却すると、この特例を受けられなくなることがあるのです。この特例が適用できるかどうかで相続税が大きく左右されるため、売却時期は慎重に決定する必要があります。
まとめ
不動産の売却は、売買契約書がなければ、通常よりも多くの税金を支払う可能性が高く、特に売買契約書を紛失した場合に困るのは、相続が発生したときです。これから相続の準備を始められる方は、「売買契約書がない!」という事態を避けるために、早めに売買契約書の所在を確認し、相続人の方が困ることのないように対策しておきましょう。
また、親の財産に不動産がある場合など、不動産を相続する予定がある方も、あらかじめ売買契約書の所在や購入先などを確認して、相続が発生した時にスムーズに手続きが進められるように準備をしておくことをお勧めします。
構成・編集/松田慶子(京都メディアライン ・https://kyotomedialine.com)
●取材協力/中川 義敬(なかがわ よしたか)
日本クレアス税理士法人 執行役員 税理士
東証一部上場企業から中小企業・個人に至るまで、税務相談、税務申告対応、組織再編コンサルティング、相続・事業継承コンサルティング、経理アウトソーシング、決算早期化等、幅広い業務経験を有する。個々の状況に合わせた対応により「円滑な事業継承」、「争続にならない相続」のアドバイスをモットーとしており多くのクライアントから高い評価と信頼を得ている。
日本クレアス税理士法人(https://j-creas.com)